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2003/12/5掲載 第3回

スピードスケート 土井槙悟 第3回

前のページより)

 厳しい合宿を経ていよいよスピードスケートのシーズンが開幕である。以前、土井は今年最大の目標は「W杯代表」と語ってくれたが、その選考を兼ねた全日本スピードスケート距離別選手権という大事なレースを2週間後に控えた心境はどのようなものなのか、現在の調子の面も含めて質問すると次のように返ってきた。

 

 スタート

――距離別選手権をちょうど2週間後に控えていますが、調子のほうは?
 今はちょっと調子が悪いんですけど、まだあと2週間あるので徐々に焦らず仕上げていければと思っています。調子が悪いというのは、コンディション的なものもあるんですけど、今はスケート靴の方に問題があって、刃の位置を調整したりして、いろいろ試行錯誤をしている状態ですね。スラップスケートは繊細なんで、刃の位置とかが少しずれただけで滑る際に物凄い感覚が違ってきてしまうんですよ。(調整する)マシンにかけて、だいぶ(スケート靴は)感じがよくなってきてはいます。体の方は風邪を引いたら絶対駄目ですね。とはいってもシーズン中一回はひいてしまうんですけど。

――大事な大会を前にして、緊張感はありますか?
 まだ緊張はしてないです。今から緊張してしまうと疲れてしまうので。集中するのはレースのときだけですね。レース前は集中して自分の世界に入りこみます。スタート前は緊張しすぎても駄目ですし、リラックスしすぎても駄目ですし、そこが難しいところですね。あと(個人種目ですが)コーチの存在って大きいですね。レース前に一言二言なげかけてくれる言葉がすごい力になりますから。

――レースにおいて絶対に負けたくないライバルの存在はありますか?
 それはあまりないです。自分が速く滑ることだけに集中しています。自分がいい滑りができれば結果として、他の選手に勝てますから。


 レースの様子。

 土井は“自分”というものを強く持っている。レースでは他の選手を意識することよりもまず自分の持っている力をいかに存分に発揮させるかに集中している。小学校5年生の時に体がかたいため、「スケートをやめたほうがいいんじゃないか」と言われた時も見返したいといった反骨心のようなものはぜんぜんなく、「やれるだけのことはしよう」と体が柔らかくなるよう努力を重ね、克服したという。スピードスケートをやめたいと思ったことも一度もない。そこにあったのはスピードスケートの魅力にとりつかれ、「この競技をやっている以上、少しでも速く滑れるようになりたい。」と願う純粋な気持ちである。またそれと同時に「この競技をやる以上、世界のトップで活躍したい」という気持ちも強く持っている。

――スケート以外の他競技の選手の中で気になる選手はいますか?
 うーん…、気になる選手というより尊敬できる選手はいますよ。やっぱり水泳の北島選手や陸上の末続選手など、自分と同世代の人たちが、世界のトップで勝負しているのを見ると、本当に凄いって思いますし、憧れます。自分も、って。

 土井は世界ジュニア選手権制覇、日本ジュニア記録保持などの実績を持ち、これからの日本のスピードスケート界を担っていくホープの一人である。しかしそれら積み重ねてきた実績は「あくまで通過点に過ぎない」と土井は言う。それは、オリンピックに出場し、一流のスケーターという階段を登っていくことができるかどうかはむしろこれからにかかっているということを、土井自身が一番よくわかっているからだ。だからこそ、今は目の前にあるレースに勝っていくことで揺るがない自信をつけ、オリンピックの選考会といった勝負どころでもバシッと結果をだせるような“メンタル面での強さ”を身につけていこうと考えている。


 優勝の瞬間
 

 そしてこのインタビューを行った2週間後、11月2日、3日と長野市のエムウエーブで2日間に渡って全日本スピードスケート距離別選手権が行われ、土井は初日の5000mこそ22位に終わったものの、2日目の1500mでは1分51秒28のタイムで見事に優勝した。表彰台の真ん中に立ち、メダルを掛けられた時の土井の表情、そして表彰式後に語った「今年は充実している。」との一言は、“W杯代表”という今シーズン最大の目標を達成した喜びと自信を表していた。

 大会終了3日後には、ノルウェー・ハーマル大会、ドイツ・エルフルト大会、オランダ・ヘレンベーン大会とW杯が行われるヨーロッパに旅立っていった土井。日本代表選手として転戦していく中で得られる経験を通じて、アスリートとしてさらにひと回りもふた回りも成長して日本に帰ってくるはずだ。そしてこれからのレースでどのような滑りを見せてくれるのか、止むことのない成長を続ける土井にこれからも注目していきたい。



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(TEXT、PHOTO=中島和朗)

 

 


 
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