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早稲田スポーツ探訪

 サイクリング。誰でも一度は聞いた事があるけれど、やってみた事のある人は少ないのではないでしょうか。もちろん、自転車に乗る事に特別な技術は必要ありません。私達は、皆さんも普段慣れ親しんでいる自転車を自らの「足」にして、日本中を旅するクラブです。 44年間「男のみ」で続いているこの伝統あるクラブは、女の子のいる華やかな他のサークルと比べ、活動も明らかに一線を画しています。 今回は、そんな男臭い早稲田大学サイクリングクラブ(W.C.C)の一大イベントである夏合宿についてお話しします。


2006/10/17更新  第6回

早稲田大学サイクリングクラブ(W.C.C)


 

「起床!」
  早朝のキャンプ場に、少々乱暴な声が響き渡る。この声でサイクリングクラブの一日が始まるのだ。まどろむ間もなく寝袋を丸め、急いでテントから出る。全員が集まると点呼が始まる。「○○から番号!」「1!」「2!」「3!」・・・「全員います」

 今年の夏合宿は中国地方で行なわれた。出発地は山口、ここから二週間かけて神戸を目指す。途中カルストで有名な秋吉台を越え、中国地方の名峰大山を通り過ぎる。今年は新しい試みとして小豆島にも上陸し、計1500キロの道程となった。

 二週間の旅ともなると、装備が多くなる。テントはもちろんのこと、着替え、食器、寝袋、50枚に及ぶ地図等々。そしてこのクラブで特徴的なのは調理器具を自分で運搬するということだ。包丁、ザル、まな板、そして一番重要なのが「大鍋」だ。これはその名のとおり中華料理屋にありそうな鉄製の大きな鍋で、クラブ員の飯を一気に作る。腹を空かせた17人分の量であるから、普通の鍋では心許ないのだ。もう長い間酷使に耐えていて、取っ手以外は真っ黒にすすけてしまっている。


 

 この「大鍋」は2年生が交代して運んでいくのだが、1000メートル越えの峠があったり、長いダートがあったりすると、もう鍋を棄てていきたい気持ちになってくる。なぜ鍋を積んで走らなければいけないのだと自問自答したくもなるが、44年間続いている伝統なので、ひたすら根性で走る。

 こうして悶々としつつもひたすら目的地に向かって走っていくのだが、他にも合宿中不条理なことが幾つかある。

 まず、ご飯の争奪戦だ。一年生は上級生のご飯をよそい、自分の番は最後になるのだが、もう残りは僅か。必然的に争奪戦が始まる。主将の合図で一年生は我先にと飛び出し、おたまを奪い合い、大鍋をひっくり返して一滴でも多く自分の食器に確保する。自分もかつて経験した争いを上級生は暖かい目?で見守る。

 風呂に入れる事も稀だ。今回の合宿では途中で2回2班に分岐した為、多い人で5回、少ない人は3回程度だった。山奥を走っている事が多いので、風呂を見かける事自体が少ない。個人的には、雨に濡れたまま寝袋に潜り、身をよじらせながら寝るのは何回やっても慣れるものじゃない。


 

 また、この大人数でどうやって走るのか疑問に思われるかもしれない。もちろん、全員1列になって走るのではなく、基本は4,5人で1組の班編制で走る。それに加えて、路面の状況を伝える為に大声での声かけや手信号を多用して、安全確保に努めている。たとえば車が来た場合、一番後ろを走っている班長が車が来ていることを振り返って確認し、まず「車ぁー!」と大声で叫ぶ、それに続いて班員が「車―!」「車―!」「車―!」と連呼する。そして一番前を走るコースリーダーがその声を確認して「はいっ!」と叫ぶ。交通量の多い道では一瞬の気の緩みが大事故につながるので、常に緊張感を持って走らなければならない。

 しかし、ずっと気を張りっぱなしというわけではない。何時間も登りつづけて峠に着けば、気分爽快!ある者はすばらしい景色を眺め、ある者は大声で叫び始める。合宿中のストレスを発散し、リラックスできる僅かな時間だ。中国地方には表情豊かな様々な峠があり、登りがいがあった。

 そして最後の難所六甲山を越え、神戸の街を望む。久しぶりに大都市を見た時の感動は一塩だった。しかし、神戸市内を走る私たちは異様な集団にしか見えなかった。黄色くて目立つサイクルジャージを着て、腕や足は不自然なほど日焼けしているのだから。それでも1500キロの道程を乗り越え、ゴール地三ノ宮駅にたどり着くと、周りの目を気にせず喜びあったのだった。

 雨に濡れれば体が震え、太陽に照り付けられれば汗だくになってペダルを漕ぐ。走っている最中は辛くてたまらないが、峠に着けばそんな事も忘れてしまう。猥雑な日常を離れて、規律の中にも自由奔放な日々を過ごせる合宿は、貴重な体験を私たちに与えてくれる。

 W.C.Cの活動は「青春」の二文字にほかならない。

 

関連サイト
早稲田サイクリングクラブ

(TEXT、PHOTO=早稲田大学サイクリングクラブ(W.C.C)提供)
 


 
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