「集中!集中!」、「落ち着いていけ!」。飛び交う声援に後押しされたように、土俵前で自分の出場を待つ選手たち。ふぅっと深く息をはきだし、土俵上の四角い天井を見上げる仕草。「パンパン!」手で思いっきり、自らの顔を叩き、気合を入れなおす動作。7月29日、靖国神社内相撲場にて行われた、東日本学生相撲個人体重別選手権大会の土俵だまりには、様々な選手の、様々な思いが交錯する。
会場を目の前にして、私の頭の中には、ある印象が浮かんだ。『まん丸と太った体型、190cmを越す大男の肉弾戦。』テレビで見る、一般的な相撲のイメージ。「この試合でも、そんな大男達が登場するのだろう」私は高をくくっていた。しかし、私の目の前で繰り広げられた光景。それは、このイメージとは、一線を隔すものだった。
実力に応じて順位を付け、体重に関係なく試合が組まれる大相撲の世界とは異なり、柔道のような『階級別方式』をとる学生相撲。65kg未満から始まり、135kg以上に至るまで、選手の体重に応じて階級が割り振られている。もちろん、重い階級に行けば行くほど、大柄の選手たちが登場し、テレビさながらの迫力ある試合が展開される。しかしそんな中で、ひときわ目を引くものがあった。大会中最軽量、65kg未満級だ。
「細い。」これが第一印象。筋肉質な、いわゆるアスリート体型をしているこの階級の選手たちに、「本当に相撲が取れるのか?」そんな感想さえ覚える。しかし、いざ試合が始まった時、そんな考えは水の泡と消えていった。
「ハッケヨーイ、のこった!」審判の威勢の良い合図で立ち会う土俵上の両選手。「ゴツン!」大きな音をたてぶつかり合い、低い体制でがっちりと組み合う。なかなかの大迫力。さらに、しなやかな身体から放たれる豪快な投げ、土俵際、せめぎあいの末の逆転劇。「オー!」周りからは、驚きと興奮の声が沸きあがる。細い体型、軽量級だからこそ見られるスピード観、鮮やかな投げ技の数々は、観るものを圧倒した。
外国人力士の増加で、大型化が進む昨今の相撲界。恵まれた大きな体型を持つ者こそが王者に君臨する、そんな風潮がある。確かに、足以外のすべての部分を地に着けてはいけない相撲にとって、『体重』が重視されるのは当然の事。しかし、学生相撲の土俵の上では、どうやらそれだけでは説明できない、異なる力がはたらいているようだ。
額にはアザ、時には身体から血を流し、土俵脇の空いたスペースでぶつかり稽古を続ける選手たち。大柄な選手、小柄な選手、すべての選手の額には、大粒の汗がキラキラと光る。そんな姿をみて、ふと気付いた。学生相撲では、努力を積み重ね、自らを鍛錬し続けた者、常に向上心を持ち続けた、強い心に、勝利の女神は微笑むのだと。
「さあ、次は誰が?どんな技で?」
予想のつかない試合展開に、こんなに胸ときめかされるのは、私だけであろうか?
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