TEXT=山田浩平
名勝負。
名勝負だった。いや、早稲田が勝ったからではない。あの試合を見た人は誰もがそういうと思う。名勝負というのは好敵手なしには存在し得ない。貴花田(現横綱・貴ノ花)が千代の富士を破った一番、イチローと松坂の初対決しかりそうだ。そして、ラグビーの早明戦は、その中でもっとも多くの名勝負を繰り広げていた一番ではないだろうか。文字通り、今年の早明戦も名勝負として語り継がれることになるだろう。
試合の30分前はあまり人の入っていない観客席だったが、試合が近づくにつれ多くの人が入り、結局51,000人の観客がこの試合を生で観戦することになった。
前半
試合開始。試合は前半5分、明治のキックをチャージして奪ったボールを繋いでWTB山下が持ちこみトライ。5‐0で早稲田がリードした。その後、SH後藤のPGで3点返した明治が28分、CTB艶島のパスをWTB陣川がインターセプト、そのまま独走し中央にトライ、ゴールも決まって5−10とリードする。3分後にすぐさま沼田PGで3点返し、2点差とした早稲田は38分にボールを右に展開しWTB西辻がトライ、逆転に成功する。その後、前半終了までリードを保っていたかった早稲田だが、明治の猛攻に耐えきれず中央ラックから最後は再びWTB陣川が決め再逆転。13−15の明治リードで折り返す。
ハーフタイム
前半は点差はあまりついていなかったが、早稲田はパスミスの多さが目立ったのに比べ、明治は、キックの精度が高く試合運びの上手さを感じさせた。後半はどうなるのか、誰にも予想がつかない展開だった。なお、今回の早明戦からハーフタイムにチアリーディングのパフォーマンスが行われた。席が反対側で小さくしか見えなかったが観客には概ね好評だったように思える。次からも続けて欲しいものである。
後半
後半開始直後から明治が猛攻を開始する。1分、4分と連続トライし、さらに7分のPGで点差は17点差と拡大する。止まらない明治に早稲田は防戦一方。直後の8分にFB山崎からWTB西辻に渡ってトライをノーホイッスルで返すものの明治の勢いはとまらず、圧巻だったのは12分のDG。SO道前の放ったキックは美しい弧を描いてポストに吸いこまれた。18‐33と再び15点差。地力の差か明治の勝利はほぼ決定的に見えた。それだけ、明治の攻撃は素晴らしかった。
しかし、早稲田がCTB高野に代えWTB横井を投入、WTBだった山下をCTBに入れると流れが一気に変わった。14分にFB山崎が3人を抜き去り復活のトライを決めると、そこからWTB西辻が連続3トライで逆転、そして一気に突き離した。後半35分で46‐33と13点のリードを奪う。38分に明治CTB瀬田にトライを許すも8点差で40分を経過する。早稲田がボールをタッチに蹴り出した。そして、ノーサイドの笛が鳴った。
早稲田は5年振りに早明戦に勝利。今年負ければ早明戦史上で初めての5連敗となるところだけに早稲田は意地を見せた。この結果、勝った早稲田は関東大学ラグビー対抗戦Aを3位で終え、全国大学選手権1回戦を17日に京産大と対戦、明治は同2位で同じく一回戦を16日に日大と対戦することとなった。
試合が始まる前は誰がこんな展開を予想しただろうか。誰もが20点前後のロースコアを予想していたに違いない。しかし、蓋を開けてみれば、46-38というトライ合戦になった。早稲田の46点という得点、両チームの総合得点84点は過去最多である。最大17点差をつけられた差を早稲田が後半終盤の猛ラッシュで逆転するという展開だった。しかし、その試合は今まで両チームが得意としてきた方法を更に進化させたものだった。
早稲田
早稲田はFWが積極的に前に出た。春から取り組んできたFWのパワー不足を補うために体重増加をした成果が出た。あの力強い明治のFW陣にも互角以上に渡り合った。しかし、だからFW戦に持ち込んだかと言えばそうではない。FWが前に出て試合を主導権を握り、BKに展開していくという方法。早稲田の「クイック&ワイド」はFWのパワーアップによりさらなる進化を遂げた。FWとBKの融合。新しい早稲田のカタチである。
明治
明治はFWの弱体化が最近叫ばれていた。この試合でもたびたび早稲田に押される場面もあった。しかし、FWの影に隠れていたBKのラグビーをこの試合では見せてくれた。明治はFWだけじゃない、そう思わせるだけの内容は充分だった。もともと個々の力には定評のある明治。雪崩のように押し寄せるBK陣を早稲田は止めることが出来なかった。FWからの素早いBKへの展開ラグビー。新しいラグビーを明治は生み出した。
復活・奇策
早稲田はFB山崎弘樹が今期初登場。序盤はミスが目立ったが、後半になり高校ジャパンにも選ばれた実力を思う存分に発揮した。後半15分には自ら切り込んでのトライ。WTB西辻に絶妙のパスを供給した。FB山崎の入ったBKは安定した。10日前の慶應戦に比べミスが激減した。今回の早稲田の勝利は彼の復活抜きには語れない。そして、後半10分、益子監督はCTB高野を変え、WTBの横井を投入した。高野の位置にはWTBだった山下が入った。高校時代はCTBとして活躍したWTB山下のこの大事な場面でのCTBへの器用がズバリ的中した。この変更後、流れが一気に早稲田に傾き逆転勝利へと繋がった。相手のスタミナが落ちてきたところにスピードNo.1のWTB横井を投入、縦にも強い山下をCTBに入れ、突破力抜群のWTB西辻と合わせ、一気に相手を蹴散らす新しいパターンを生み出した。
誤算
明治の誤算は主将の桜井が出場停止であったことか?しかし、代わりに入った1年生WTB陣川が2トライするなど大活躍。特に前半28分のインターセプトからの独走トライは見事だった。しかし、正面に相対する西辻に5トライ奪われるなどディフェンス面での課題を残した。それより痛かったのは、SO菅藤とCTB菱山の負傷退場だ。不動のレギュラーであり、攻撃の核の2人の同時離脱はあまりにも大きかった。後半途中から早稲田に向いた流れを終了間際まで取り返せなかった。2人がいたらどうだったか。流れを断ち切ってもう一度明治に流れを戻したかもしれない。スコアが逆になっていた可能性も否定できないのだ。
終わりに。
人気凋落が叫ばれていた早明戦だったが、そんなことはない。国立は5万以上の人で埋まり、トライをするたびにそのチームの旗がスタンド全体に振られた。ミスをすればどっとため息が聞こえ、チャンスになれば大歓声が響く。これほど観衆と選手が一体になれる試合はあまりないと思う。選手側もそれに応えて最高のパフォーマンスを見せてくれた。それが早明戦が早明戦である理由なのではないだろうか。今年は早稲田が勝利したが来年はどうなるだろうか、それは分からない。今年の早明戦ですら霞んでしまうような試合を繰り広げてくれるかもしれない。今年の早明戦は今年の早明戦として心にしまっておこう。さあ、次は日本大学選手権である。負けたら終わりの戦いが始まる。こちらも会場まで足を運んでみてもらいたい。早明戦とはまた違った闘いが見れるはずだから。
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