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ア式蹴球部 2部復帰特集 「探し続けた”糸口”」(3回連載)

第1回 「昇格の瞬間」
   TEXT=神原一光

 

 「まったく、胃の痛い試合しおって(笑)」藤原義三監督はそう切り出した。


入替戦試合直前、円陣を組む早大イレブン

 「因縁の対決」だった。 全日本大学選手権(インカレ)を10回制覇、関東大学リーグ1部優勝24回を誇る名門ワセダは、2000年11月23日、創部史上初めて東京都大学リーグに降格した。それから1年後、2001年11月23日。西が丘サッカー場。あの時の屈辱の涙が染み込んだピッチに早稲田は戻ってきた。 対戦相手は立正大学。奇しくも昨年の入替戦で負けた相手。「名門」復活には、なんとしても乗り越えなければいけない「壁」だった。

 90分の時が刻み出した。しかし、入替戦の緊張からか、選手の動きは明らかに堅い。案の定、前半10分に先制されてしまう。「大舞台での経験がない選手たちばかりやから、勝つことを知らんのよ」。藤原監督は試合前、イレブンに2つのことを指示していた。立ち上がり不安定なイレブンに、通常は「失点だけはするな」という指示。しかしこの日は一転、攻めの姿勢を強調する。「前半20分以内に1点いれろ」もしくは「点をとられても前半で取り返せ」。引き分けは「負け」の入替戦、攻撃の積極姿勢は「今シーズン初めてのアドバイスだった」という。早稲田は勝ちにいったはずだった。

 先行逃げ切りが今年のワセダの持ち味にもかかわらず、DFのミスから逆に失点を許してしまう。「積極的に攻めるつもりが、積極的に堅くなってしもうた(苦笑)」監督の不安が的中してしまう。

終了間際、相手キーパーとの競り合いから、小貫多加志(商3)がゴール。同点で前半を折り返した。点をとられても前半で追いついた。勝利への「指針」は保った。「あれが、本当に大きかった」。

 小貫、そして決勝ゴールを叩き出すことになる佐藤勇吾(商3)は監督が待ちに待っていた選手だった。都リーグでは好調だった2人が、関東大会になり突然の不調。得点は「0」。しかし、監督は2人を使い続ける。「チームのキープレーヤー」であり、「彼らの活躍なしでは早稲田の勝利はない」と信じ、周囲の不安の声もはねのけた。「うるさい、だまっとれ、ってな(笑)」

 相手キーパーの弱点を見抜いた監督は、後半に入って「キーパー目掛けて、蹴れ」とアドバイスする。押しっぱなしの後半、だが点は入らない。

 後半20分、上赤坂佳孝(商4)に変えてスピードのある堀池を投入。流れを変えようと試みるが、その時ケガを抱えていた山田正道(人2)、庄堂裕也(人2)が続けて痛みを訴えそれぞれ谷口高浩(人3)、渡辺鉄也(人4)と交替。15分の間に3人交替という緊急事態に「万策は尽きた」。90分で勝たないと危ない。流れは一転、立正大学に傾いた。

 膝に爆弾を抱えていた青嶋も気掛かりだった。延長になったらはたして動けるのか。「10人で戦う覚悟」すら脳裏によぎったという。そして試合は延長戦へもつれ込んだ。

延長開始前のミーティングで「うちより、相手の方が疲れている。どっちが勝ちたいかやぞ!」激を飛ばした監督。「もう、誰も交代できない。うちが不利な状況は変わらない。でも俺がそれを口にしてしまってはダメだ。」選手には不安を感じさせないように、そして自分自身に言い聞かせるように言ったという。


二部昇格が決定し、喜ぶイレブン達

 延長前半7分、その時は来た。青嶋からのセンタリングを胸で受けた佐藤が、ボレー気味でシュートを放った。それが相手ディフェンダーに当たり、角度を変えて相手キーパーの頭上をすり抜けた。「スローモーションみたいやった」。まるでドラマのワンシーンを見るようだった。「神風ゴール」。「あれこそ、早稲田が忘れていたゴールなんや」。ドサクサにまぎれての泥臭いゴールが信条だった栄光の時代を彷佛させる「執念」のゴール、今シーズン最後の最後で「早稲田らしさ」が存分に溢れた。

 その影で、監督は「ヒヤヒヤした」という。「いやあ、実は青嶋がオフサイド気味でね(笑)。相手ディフェンダーにボールが当たったのと、青嶋とね。審判がどっちとるかなとさ」。2部昇格を決めるシュートに監督はいたって冷静だった。「俺だけだよ。気にしてたの、ホントに。選手達は喜んでたけど、オフサイドやったらどないするんやーこいつら、思ってたわ(笑)」

号泣する選手たち、観客にも涙する人が見える。ちょうど1年前、早稲田イレブンは西が丘のピッチに突っ伏し嗚咽した。その悲しみを乗り越えた、歓喜の涙があった。西が丘は「あの日」と全く変わらない、雲ひとつない空だった。

つづく

 



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