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Text=鈴木雄大


 

<第77回早明戦、ロスタイムの奇跡>


関東大学対抗戦Aグループ
12月2日、国立霞ヶ丘競技場
早稲田大
36
14 前半 22
34
明治大
22 後半 11

この結果、早稲田は対抗戦全勝で1位
明治は慶應大に次ぐ対抗戦3位が確定。

 

本当に勝ったのか。

CTB武川のプレースキックが決まって36-34。もうワンプレイもない。大観衆の国立競技場の中、僕は武者震いを止められずにいた。早慶戦の時も震えを感じていたが、それとはまた別種の何かを感じる。審判の笛。ノーサイド。早稲田は14年ぶりに全勝で対抗戦を終えた。慶應を抑えて、明治を抑えて、優勝。国立に響き渡る絶叫。どこからともなく聞こえる「都の西北」。しかし、本当に勝ったのか。

下馬評どおりにいかないのが早明戦、とよく言われるが、それにしても明治は強かった。終止ラックを有利にすすめ、出足の早いディフェンスが攻撃の起点SO大田尾を完全に封じ込め、CTB山下の突破をほとんど許さなかった。逆に早稲田は常に受け手。早慶戦で見られたスピーディーな攻撃がほとんど見られない。前半、14-22。特にミスから取られた前半最後のトライが余計だった。早稲田が前半リードされて折り返すのは初めてのことだ。もしかしたらこのままズルズルいってしまうのではないか。嫌な予感は確かにした。

後半開始当初、僕は隣にいた後輩と一つ予想を立てた。「後半最初のトライがキーポイントだ。」そして後半12分。明治キャプテンNo.8の松原が怪我を感じさせない素晴らしい動きでトライ。15点差。「負けた」、そう思わざるを得なかった。
しかし早稲田フィフティーンの動きがここから変わった。明らかなギアチェンジ。今までモタモタしていた密集からの玉だしも、キックからのリスタートも、突然のスピードアップ。続けざまの2トライ。3点差。17点差をひっくり返した去年の再来か。10分前に「負けた」と思った自分をひたすらに否定した。「いける、これはいける」


ゴールを狙うCTB武川。このゴールが決まり早稲田は逆転

しかし───。次のトライは明治。ゴールこそ外したものの、残り10分で8点差になってしまった。ワンプレイ(注:トライとその後のゴールで7点、一つのプレイで取ることが出来る)で逆転は不可能。「負けた」。これが早明戦の明治なのか。
その後も早稲田は攻めつづけるもののトライには至らない。サインプレイからの山下の突破も、決まったかと思ったがまさかのインゴールノックオン。「負けた」。敵陣深くからのマイボールラインアウトをあっさり明治に奪われる。「負けた」。後半に入ってから、僕は負けたと何度も呟いていた。明治も足が止まりはじめたが気迫が違う。難産末のWTB山岡のトライも、時は既にインジュアリータイム。「負けた」。1点差だがもう時間はない。しかも明治ボールのキックオフ。いくらなんでももう。早稲田の惜敗を確信した瞬間・・・・・。
明治のキックオフはなく、何故か早稲田のフリーキックから試合再開。わけも分からないまま、僕は、後半明治の反則が多いことに気がついた。その途端、口は勝手に動いた。「無理に行くな!ペナルティを取らせればいいんだペナルティを!」

そして、審判の笛。明治オフサイド。早稲田のペナルティキックだ。勝った。後半43分にして初めての確信。ボールがゴールの中央に吸い込まれる。36-34。キック成功の審判のフラッグが上がった瞬間、涙を流したのはきっと僕だけではなかったはずだ。不可解なキックオフは明治SH藤井のラフプレーをとったもの。もしかしたらテレビで見ていた人たちは後味の悪い試合だったかもしれないが、少なくとも競技場にいた早稲田ファンは「ロスタイムの奇跡」に酔いしれていた。
きっとこの試合は「雪の早明戦」以来の、伝説の早明戦となるだろう。試合終了後、オーロラビジョンに映し出された清宮監督の顔。「まったくもう、ヒヤヒヤさせやがって」左京主将にそう語りかけているような、そんな気がした。

<ラインアウト、ラインアウト、ラインアウト。>

ここまで早稲田が苦しんだ理由は色々上げられる。まず明治が予想以上に「早かった」こと。FWを中心としたディフェンスの出足の良さ。ラックでは完全に優位にたたれた。早稲田も戸惑ったところはあるだろうが、前のめりのディフェンスに対して裏に蹴り出してウイングを走らせるというオプションがなかったのだろう。攻撃はしばらく攻め手を欠いていた。


試合後、観客と一緒に喜ぶ早大フィフティーン

しかし、それは明治の動きが良かったからのこと。際たる理由はむしろ早稲田の動きの悪さ、特にラインアウトの精度のなさは早稲田を何度もピンチに陥れた。サインは確実に出ているはずなのだが、ボールを取るべき両ロック高森、左京ともに「おいどうすんだよどうすんだよ」という表情のままボールが投げ入れられ、あっさりボールを奪われるというパターンが何度も続いた。今シーズンは不安定なラインアウトが常に課題とされたが、それが完全に露呈した形だ。続く大学選手権、ラインアウトの修正ができなければ決勝はおろか、準決勝で当たることが予想される慶應との再戦も危ないだろう。とにかくラインアウトの精度、これさえしっかりしていればもう少し早明戦は楽な試合展開になったはずだ。

ただ、こんなところで言われなくても早稲田フィフティーンはそんなことはわかっているはずだ。試合後のコメントで選手はみな「出来は最悪」と口をそろえていたそうだが、大学選手権前にこれだけ厳しい試合をしたことはきっとこの後に生きてくる。大学選手権の初戦は16日。9月に交流試合をした大東文化大学がおそらく相手となるだろう。その時は50-5と圧勝したが、大東もリベンジに燃えて来るはずだ。気を抜くことなく、まずはラインアウトをきっちりと修正して初戦を飾ってほしい。本当の目標は対抗戦制覇などではない、学生王者・関東学院大学を破っての全国大学選手権制覇なのだから。

 




 
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