五十嵐毅主将

（前のページの続き）――どうして早稲田の競走部で走ろうと思ったのですか。
五十嵐：ユニホームですね。走れればどこでもいいじゃないですか、でもやっぱりうちで走りたい。
和田：やっぱりユニホームというのはすごく強いと思いますね。箱根駅伝に出ている大学で浪人してまで入りたいというのは、早稲田がダントツだと思いますし。それこそ一浪しようが二浪しようが早稲田!!というのは、それだけ魅力的な大学なのでしょうね。僕自身もエンジのユニホームに憧れて入ったというのが強いですからね。大学は早稲田しか考えていなくて、学部も正直どこでも良かった(笑)。なので競走部に入らなければ早稲田に入った意味もないと思ったので、コーチにお願いにいきましたね(笑)

エンジのユニホームに憧れ、早稲田に入った彼らだが、競走部への入部は生活のほとんどを陸上一色に染めることを意味する。現在四年生の彼らの大学生活についても聞いてみた。

――学部ではどんなことを勉強しているのですか。
和田：健康生理学を専攻しています。卒業研究ではエタノールの代謝について。早く言えば、お酒を飲むといろいろと分解されていくのですが、分解が男女によって差があるのではないかと。差があるのであれば、どういうところが違うのかということを勉強しています。
五十嵐：自分のフォームをコマ送りして、ここのひざの角度がどのくらい曲がっているのか、というような動作解析をやっています。

和田節主務

――学生としての目標はありますか。
五十嵐：いやぁ、もう入学した当時からそんなこと考えてはいませんでしたね。
和田：あくまで中心は競走部だから(笑)、競走部が中心で勉強が動いている。ただね、部が中心ですけれども!!・・勉強もちゃんとしていこうね、というのが目標ですね。文武両道(の学校)ですから(笑)
五十嵐：そうですね、そういうのが競走部のあるべき姿なのではないかと(笑)
和田：またまた〜(笑)でも授業は間違いなく出ていますからね。卒業をちゃんとしようと。ただ、犠牲にしなければ得られないものも多いと思っていましたし、入部する時点である程度学生としてやりたいことは諦めていました。それはここに入ってくるメンバーのほとんどがそうだと思いますし、そうしなければ結果というのはついてこないと思いますね。
五十嵐：でもどっちで人間的に成長するかっていえば、競走部でやっていた方が自分で考えて成長していく部分が大きいと思うので、学校とは比較にならないと思うのですよ。だから学生的な目標として言うとしたら、僕の中では・・卒業くらいですかね(笑)

取材は練習前の所沢キャンパスの陸上競技場で暖かな日差しを受けながら和やかに進んだ。ふたりとは初対面だったが、明るく快活な話し方でおおらかな印象を受けた。

後日、同じ場所で5000mの記録会が行われた。競走部からも何人かの選手が出走することになったが、その中には選手である五十嵐の姿もあった。そのレースでの一幕。なかなかのハイペースでレースは進み、ラスト一周の鐘が鳴った。必死の形相でペースを上げようとする五十嵐。主務として全体を見渡さなければならないため忙しく駆け回る和田が、トラックのすぐ近くまで駆け寄り、選手に厳しい様子で大きく声をかける。そのふたりの姿は、取材の時の穏やかな様子とは別人のようだった。その時の五十嵐のタイムは自己ベストであった。

その時改めて気づいたことがある。たった一度会ったきりでは、その人のことはよく分からないということだ。彼らについてもっと知りたいと思った。今度はどんな顔を見せるのだろう。（終）

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