10月に行われた箱根駅伝予選会の翌日、予選を1位通過し本選出場を勝ち取った早大競走部長距離ブロックのランナーやスタッフの喜び弾ける姿が新聞各紙を飾った。どん底の状態にあった春シーズンから数ヶ月、チーム一丸となって勝ち取った勝利であったが「やっぱり悔しいな」と宮城普邦(一文2)は感じた。予選会エントリーメンバー14人の中のひとりであったが、当日出走できる12人のメンバーからはもれてしまったのだ。
「自分が(最終メンバーの12人に選ばれる)ボーダーにいることは分かっていましたし、前日からはずされるのは自分だろうかと感じていました。言われた時も仕方がない、サポートでがんばろうと思っていたのですが、正直悔しいですよね」。宮城は昨年度の箱根で六区にエントリーされていたものの、当日はメンバーからはずされ出走することはかなわなかった。その分くやしさ、晴れの舞台への渇望は人一倍ある。「(予選会で走れなかったことに対して)今思うのは、練習で積極的に前で引っ張る走りができなかったということ。箱根で走れるためには、ひとりでもしっかり走れる力をつけて、もう一段レベルアップして走れるようにしたいです」。
予選会では3人のルーキーが参戦し、物怖じしない走りでチームの勝利に一役買った。しかしチーム内4位の快走を見せた石橋洋三(スポ1)と同じスポーツ推薦で入学した本多浩隆(スポ1)の心中は複雑だ。「同じスポーツ推薦入学の石橋はまだしも、(一般入試で入学してきた)他のふたりには絶対に負けたくない」。本多は高校二年時に5000メートルを14分4秒という高校トップレベルの記録を出すなど、実力的には他の一年生に決してひけをとらない選手だ。
だが、高校三年次に足を故障し、それでも無理を通して練習を続けてしまい体のバランスを崩してしまった。全く走れない時期が続き、ジョギングをしても10分もたたないうちに足が止まってしまうこともあったという。「長い故障という経験は初めてだったので、どうすれば良いか分かりませんでした。休むということに焦りがあって、休めなかった。でも今は疲れを抜くコツが少しつかめてきました」。夏頃から本格的な練習も積めるようになり、完璧に力を取り戻したとは言わないまでも確実にチームの戦力となりつつある今、目指すは箱根本選に出場することだ。「自分の弱点である筋力の強化と一日一日の練習が課題。練習メニューを確実にこなしていけば結果はついてきますから。とにかく少しでも速くなりたいし、箱根のメンバーに入りたいです」。
予選会2週間前、メンバー決定の重要な判断材料にもなる部内タイムトライアルが行われた日の夜、坂口享(政経3)はちっとも寝つけなかった。「まずは予選会で走れるランナーになること」。ここ数ヶ月の間、彼を突き動かしてきた目標がかなわないことが分かったからだ。入学当初とりたてて目立つ選手でなかった坂口は、「才能があるエースに勝つには頭を使わなくては」と繰り返す。みんなと全く同じような練習をやったって速くはなれない。自分にとって一番適した練習方法を模索し続け、ただ走り続けるのではなく練習のひとつひとつに意味付けをしてきた。結果、スポーツ推薦で入学してきたランナーに競る走りをするようになり、箱根本選を走ることさえ夢ではなくなってきた。
ところが、夏に多量に走りこんだ分疲労がたまり、9月に入ってからというもの足に力が入らず、速く走ることができなくなってしまった。夏の走りこみで力はついたが一番大事な時に思うようにいかないジレンマにさいなまれる、「悔しいと思わなければ、もう陸上を辞めろということ。みんなで盛り上げて予選を通過したのは良かったけれど、正直素直に喜べなかったですよ」。坂口の今、一番の思いは箱根に出場することだ。しかし彼は自分の力を過大にも過小にも評価することはない。「僕はいつも通りにマイペースに練習するつもりです。欲は出さず頑張らずに、自分のできる範囲でうまくやっていきたいと思っています」。
チーム内の力は均衡しており、誰が走ることになってもおかしくない状況を宮城は「チーム内の競争が激しくなれば、チーム全体の底上げにもなって良いこと」と評価する。しかし彼らの心は不安でいっぱいだ。全員が同じくらい頑張って練習する中で、果たして自分は選ばれることができるのだろうか? そんな焦りが過剰なトレーニングにつながり、逆の結果に陥ることがあることもよく知っている。坂口は言う、「結局自分の練習方法が正しいことを信じて、淡々と練習を続けるしかない」。先が見えない不安、焦り、それを乗り越えたランナーが速く走れるし強くもなれるのだろう。
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早稲田大学競走部公式サイト
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