ここまで悔しさをあらわにした大迫傑(スポ3)を初めて見た。
それは男子10000m決勝での出来事だった。
ロンドン五輪最終選考である日本選手権。10000mにはA標準を突破している選手が既に複数名いる。ロンドンを狙う大迫にとって、この大会はA標準を突破するための最後のチャンスだった。
レース序盤は縦長の大集団が形成され、大迫は真ん中に位置づける。
6000m過ぎに集団が15人程にしぼられると、7000m付近で大迫が先行する選手をじわじわと捉えて5位に浮上。村澤(東海大)、宇賀地(コニカミノルタ)、宮脇(トヨタ自動車)、佐藤(日清食品グループ)らの後にぴたりとつき、機を伺った。
その後、宇賀地らのペースアップによって先頭集団は大迫を含む5人に。さらに残り800mに入ると4人にしぼられた。
そしてラスト1周に入ると、1位争いは熾烈を極める。スパートをかけた佐藤に大迫も苦しい表情を見せながら必死に対応、両者による抜きつ抜かれつのデッドヒートが繰り広げられた。しかしラスト300m、佐藤が大迫をリードし、そのまま優勝。大迫は僅か0.38秒後の2位でゴールした。
ゴールした大迫は力尽きたかのようにそのまま倒れ込む。そして悔しさのあまり、叫びながら地面を拳で思いきり叩いた。そのまましばらく地面に突っ伏した彼の背中は悔しさで震えていた。
もし佐藤を振り切って優勝していたとしても、記録はA標準に及ばなかっただろう。
それでも優勝をすれば五輪代表選考対象として考慮されていたかもしれない。「日本選手権で優勝を狙う」とかねてから誓っていた大迫にとって、ラストで競り負けた事実は屈辱以外の何物でもなかったのだろう。
ストイックで負けん気の強い大迫はいつでも冷静だ。その彼が観衆の前で感情を露わにしたのだからどれだけ悔しかったのだろうか。その強い思いは観客にも伝わってくるものだった。
ロンドンは絶望的になった。
しかし、この日味わった無念をバネに、悔しさを喜びに変える日がいつか必ず来る、そう感じさせられるようなレースだった。レース直後の彼の姿を見た誰もが、大迫はもっともっと強くなると確信した。
早稲田の真のエースを目指して、そしてトラックで世界と競り勝つ事を目指して大迫の特訓がまた始まる。
【男子10000m決勝結果】
大迫傑(スポ3)28分18秒53
関連URL
早稲田大学競走部公式サイト
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