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――日の丸を背負い、日本代表として走った感想は?
みんな期待してくれるので、ダメだった時というかあまり記録や結果が良くなかったときはすごい申し訳ない気持ちにもなります。それでも、今回良かったとしても悪かったとしても、そこのたった一回だけで終わるようだったら選手としてはまだまだだと思うので、今回得た経験を次に繋げられるような選手にならなければいけないと思ってます。今回ダメだった分、次でしっかりと結果を残せればいいかなと思うので、今回の経験を自分を向上させる方向に働かせるというか、「自分の中に取り入られるように」とは考えてますね。
――日本代表チームの雰囲気はいかがでしたか? 短距離チームは合宿や遠征もあって特に長い時間一緒にいたので、みんな仲良くというか、自然体でやれていたと思います。特にいつも気を張り続けているわけでもないですし、上下関係がガッチリしてるわけでもなく年上の人たちも僕達に気遣って話しかけてくれますし、僕らの方からもすごく話しやすい空気を作ってくれたので、チームの雰囲気は良かったです。
――同じ日本代表の選手から学んだ点は? 自分のペースをあまり崩さないようにした方がいいのかなって印象を受けました。やっぱり代表になっていくような選手達っていうのは自分のリズムやペースを持っていて、それを国内だけじゃなく海外に行ってでも、もちろん最低限合わせるところは合わせて、それ以外のところでは、自分が競技で力を発揮するために自分のリズムを自然と守りながら生活しているように思えたので、あまり他人のリズムで生活してしまったり、合わせ過ぎないようにしないよう気をつけないといけないなと思いました。
――世界大会を経験したことでの心境の変化はありましたか? 本当に速い人達と走ることが出来たので、自分の中でもっと「向上心」が強くなりました。100mでいえば手を抜いた状態でやられてそのまま終わっているので、自分がもっと強くなって、もっと本気で勝負できるような位置にいつか自分も行きたいなという気持ちが出てきました。
――今回の経験を通して、感じた課題は? もちろんスタートももっと速くならなきゃいけないですし、スピード、最大速度も求めていかなければいけないですし、後半の失速だってもっと減らさなきゃいけないですし、結果的に言ってしまえば全部が全部足りないんですけど、その中でもまずは実力を安定させるというか、条件に頼らずに安定した実力を発揮できるってことがまず必要になってくると思います。それには、自分の体格に合ったというか、「自分らしさ」を踏まえた上でトレーニングを積んでいかなければ怪我をしたりして終わるんじゃないかなと思うので、そこで変に焦り過ぎずにやろうかなとは思ってます。
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次は2011年のテグ(韓国)世界陸上、2012年のロンドン五輪での躍進を誓う。
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――逆に、これまでと比べて成長を感じた点は?
最大速度が以前よりは出るようになっているんじゃないかなと。あとは、最大速度が出た後の走りっていうものが、去年に比べれば大分向上してるんじゃないかなとは感じてますね。
――日本選手権以降江里口選手への注目度が高まっていると思いますが、ご自身の中で変化は? 注目度が上がったのかどうかは分からないですけど、それでも僕は今まで通りまだまだ実力をもっとつけたり、もっと速くなりたいと思ってやっていくだけなんで、特に人から注目されてどうこうするっていうような感じはないです。ここまで来たんだったら本当にもっと世界の上を目指したいですし、日本人初の9秒台ってものも視野に入れながらやりたいと思うので、特に他人からの期待に対して劇的に変わったものは自分の中ではないですね。
――改めて、今回の世界での経験をどう生かしていきたいですか? 今回は日本選手権に合わせて、日本人の中でトップを切って世界陸上の切符を勝ち取ることが目標だったので、そういった視点で見れば今回は目標は達成したという風に言えるんですけど、世界陸上に出場して感じたのは、やはり世界陸上で自分の実力を発揮できるような選手にならないといけないなと感じました。世界の舞台では世界記録で優勝する人もいますし、そういった「強さ」が自分には足りないなと思います。世界を一度経験したからには次は日本で勝つことだけを目指すのではなくて、世界でどう戦うかを考えてやっていかなければ自分にもこの先はないなと思ったので、そういった新たな視点、次のステップでの取り組みが必要だなと感じました。
――最後に、秋シーズンの目標、抱負を聞かせてください。 秋は試合を多くして、その中にいくつか国際試合も含まれているので、今までは10秒3とか4だった記録を、それ以上10秒2より上の記録で安定させてシーズンを過ごすことが出来ればいいなと考えています。今回の全カレは10秒1で優勝することが出来たので、あといくつかの試合で10秒1台を1、2度出したり、まずはアベレージを上げて実力をつけて、やはり国際舞台でも国内でも自分の力を発揮できるような選手だという認識をもってもらうことが一番大事だと思います。
世界の舞台を経験したことで視野が広がり、これまで見てきたものを別の視点で捉えられるようになったと語る江里口選手。「経験の重要性」を力説する本人の言葉から分かるように、今回の世界陸上では今後に繋がる結果以上の何かを掴んだようであった。「これからは世界でどう戦うかを考えてやっていきたい」という大きな志を抱く姿勢は、決して慢心ではなく、彼がアスリートとしてまた一つ上のステージへ進んだ何よりの証なのだろう。
世界での貴重な経験を糧に、更なる進化を続けていくであろう江里口選手の今後に注目して頂きたい。
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