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バスケ部主将藤野素宏6月号 

2002/6/30更新  第2回
バスケ早慶戦、ナンバーナインの秘密

 この日、藤野の右手の手のひらには『9』の数字がマジックで書かれていた。『9』は藤野だけではなくほとんどのバスケ部員にも見られた。早稲田のナンバーナイン、麻生自身が書いたものだ。この日は麻生の引退試合でもあった。

 

 早稲田大学記念会堂を今年も満員にしたバスケ早慶戦。試合が進むにつれ、序々に早稲田が苦しい時間になる。「苦しくなると手のひらの『9』をみて、ここがんばらなきゃってもう何回も見てましたね。」

 試合終了。その時キャプテン藤野はコートの中にはいなかった。5ファウルで退場をくらってしまったのだ。「第4クオーターにはいって今まで押してたうちがだんだん守りがちになると向こうはがむゃらにゴールを狙って慶応ペースに傾いてきてて、ずっとこのままじゃいけないと感じてたんです。エグイくらのファールして相手をカッカさせるくらいしなきゃなって、そしてそれをやるのは俺だと」

仲間を信じてましたから。絶対やってくれるって

 今年で最後の早慶戦、最後までコートにいたかったに違いない。またチームにとって「キャプテン」という精神的柱がぬけるということはどんなチームにしろ何かしらの影響がでてあたりまえだ。「いや、でもあまり心配はしてませんでしたね。仲間を信じてましたから。絶対やってくれるって。ただそれだけです。それくらいの信頼がないとやってけないですよ」

 その通り、彼の心配はいらなかった。同じ4年生である麻生、岩崎が大黒柱がぬけたチームを大きい声をいつもよりとばして盛り上げていた。藤野がコートを出る時、「おまえらのこと信じてるから」なんて言葉、言わなかったに違いない。コートの中の選手達もそんな言葉、聞かなかったに違いない。でもそこにはきっと「聞こえない言葉」があった。たぶんナンバーナインを書かれた者だけへの。

 試合は第4クオーター、2点のビハインドを抱え、残り2秒。それはスラムダンクにでてくるラストシーンのようにナンバーナインの手ら離れたボールがネットに入るとさらに延長突入の末、最後は岩崎のフリースローが決まり早稲田が勝利した。94-92だった。

 コートになだれ込む部員たち、そして選手。その後チームを勝利に導いたナンバーナインは藤野とがちっと抱き合った。言葉はあまりいらなかった。

 

 しかしこんな感動的シーンにいきつくまで実はいろいろと大変なこともあったのだ。ナンバーナイン、麻生の引退試合。聞こえはかっこいいが本人は言い出すのは難しい。いつ仲間に言うのか、いつ監督、コーチに言うのか。藤野は少し前からなんとなく気づいていた。そしてそのことを本人の口から聞くと、それを他の部員にもしたほうがいいと薦めた。

 練習後その話をほかの部員にするとみんな泣いた。そして朝までサイゼリアで語り合った。チームのこと。試合のこと。引退のこと。「麻生にこの話を聞いたのが早慶戦の4日前とかで、俺自身正直ショックだった。でも今思えばこれでみんなが麻生のために勝とうという気持ちになって、チームがひとつにまとまるいいキッカケになったと思います」とつい何週間か前のことを懐かしそうに振り返る。なぜか彼が羨ましく思えた。

人生の羅針盤の行方

 今回の取材が終わり、雑談モードになると彼はまだぜんぜん細かいことは言えないけどと前置きした後彼は思いついたように話し始めた。

 なにやら彼の人生の羅針盤が動き始めはようである。しかしその針は動き始めたばかり、まだ止まってはいない。その針がピタリと止まる時がきたら私たちに話してくれるという。それが何なのか聞きたくて聞きたくてしょうがない気持ちではあるが、彼の口が自然に開くその時まで気長に待つとしよう。

 


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