「一部昇格」という目標に向かって
私が初めて藤野に会った日、それはこのリアルボイス年間プロジェクトの第一回の取材の日である。今年の目標はと尋ねた私に「一部昇格」彼は力強くそう言っ
た。
「満足しています」今の気持ちはと尋ねた私にまた力強く、そして少しほっとしたように言った。約半年前、彼の口から出た言葉は現実になっていた。その過程は奇跡的でさえあった。
早稲田は2部リーグ第5週で大東文化大に負け、2位での入替戦出場となった。入替戦は1部の下位2チーム(青山学院大、拓殖大)と2部の上位2チーム(大東文化大、早稲田大)によるリーグ戦、同じリーグである大東大との負けは入替戦に含まれるため痛い一敗で、はっきり言って2位からの1部昇格は現実的ではなかった。
94-86。崖っぷちから早稲田は拓大に勝利。次は青学戦、藤野にはこれだけ練習で自分を追い込んだという自信があった。だから楽しく自分のバスケができた。
「楽しく自分たちのバスケをするために過程を大事にしてやれば結果はおのずと付いてくる」彼の口癖のように言っていた言葉を思い出した。
青学戦、第3クオーターまで59-59。最後のクオーターでの1ゴール1ゴールがチームのゴール地点への一歩一歩でもあった。そして長い笛が吹かれたとき早稲田のほうが2歩だけ前にいて78-74、結果はおのずと付いてきたのだった。
「俺は今年1部にいったら去年いっとけばなって絶対に思っちゃうから、あまり1部1部って気負ってなかったのがいい結果に繋がった。それを言い過ぎるとどうしても力が入っちゃうから。それと入替戦って独特な雰囲気をもっていて、そういう意味で去年も入替戦で試合をしたことが大きいと思う。去年は結局1部にいけなかったんだけど、今回昇格できたのは自分達だけの力じゃないと思ってる。」
来年のチームへ
今回チーム最大の目標である1部昇格を決めたバスケ部男子だが、来年1部での戦いにもう今の4年生はいない。今年チームを引っ張ったキャプテンは自分達の代が抜けた来年をどう見ているのだろうか?
「来年は4年がプレイヤー3人しかいなくて、チームをまとめていくこととかいろいろ大変だと思うよ。俺らの代が一番力を入れてきたことは、どうしたらいい練習ができるかってことで、だからそれをさらにいいものにしていって欲しい。いつも言うことだけど、過程を大事にして頑張ってもらいたいね。」
少しの心配もありながら、自分達が戦えなかった1部リーグで後輩がどこまで頑張ってくれるか期待の方が大きいようだ。
相手が強ければ強いほど燃えるんだよ
劇的な幕切れの入替戦を終えて、観戦に行っていたウィルウィンメンバーの一人が私に言った。
「藤野さんって普段は力を抜いてやってるのかな?」
普段の試合、例えば格下のチームと戦う時の藤野のプレーと入替戦など強いチームと試合する時のプレーがあまりにも違うというのだ。私もこれには同感で強いチームとやっている時の方が明らかにプレーが冴えている。
これを直接本人に聞いてみた。
「うーん、それは俺のいい所でもあり、悪い所でもあるんだけど、自分ではいつもどおりやっているつもりでも、相手が強い方が調子いいんだよね。特に一部のチームには絶対負けたくなくて『一部だからっていい気になるなよ』くらいに思ってすごい燃える。」
やはり1部と2部の見られ方の差は大きい。高校時代の仲間は1部で脚光を浴びプレーをしている、けれど自分は2部、藤野はその悔しさを力にしていたのだ。
「やっぱ大事な場面で点を取れる方がいいでしょ。コーチや他の人からも同じようなことをよく言われるんだけど、自分では褒め言葉だと思っている。」
次にインカレについて聞いた。
「目標はベスト4」前々から自分個人としての目標はここにあると言っていただけあって力が入る。「でもまたそうすると力んじゃうから」と高まる気持ちを抑えているようだった。
最大の強敵?卒論に挑む
最後に4年生といえばいま卒論に追われ始める時期、バスケットボール選手藤野はどんなゼミでどんなことを学んでいるのか、そういえば全然知らなかった。
「ゼミは経済学のゼミで、だから卒論は経済とスポーツを少し強引にでも(笑)結びつけて書くつもり。」
「題目は?」
「まだ決めてない。」
「えっ?」
「簡単に言えばどうしたら日本のバスケ界が盛り上がるかってこと」
「もう何か調べたりは?」
「調べてない。」
「・・・。」
「インカレが終わったら短期集中でバーっとやる感じかな。」
かなり何も手をつけてないようだ。相手が強ければ強いほど普段の力以上の力を発揮する藤野だが今回の卒論をいう手ごわい相手にはどれだけの力が出るのだろうか?
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