早稲田大学競走部には、チーム専属のチームドクターというものは存在しない。その代わりに、学生がトレーナーとして選手の体調管理や怪我の予防に努めている。その数は長距離・短距離ブロック合わせて総勢五人。全員が人間科学部の現役学生である。小松もそんな学生トレーナーのひとりだ。なぜ小松は競走部のトレーナー業に携わるようになったのか。
――トレーナーになったいきさつ
小松:高校生の頃は自分でも長距離を走っていましたが、怪我で走れないことがよくありました。そういうことを通じて、ドクターやトレーナーというものに興味を持ったんです。そう思って入学した人間科学部の学部入学式の時に、キャンパスを歩いていたら競走部のトレーナーの方に勧誘を受けたんです。トレーナーがやりたくて入学したのですが、まさかやれるとは思っていませんでしたね。本当に偶然ですよ、でも行けばなんとかなるかもしれないとは思っていた(笑)。トレーナーを始めた頃は、先輩から覚えなければならない知識が載っている本をいくつか教えて頂いて、それを繰り返し読んで現場で実践して、実践してダメだったことをもう一度本で確認するという作業の繰り返しでしたね。外部で講習会もやっているので、それに参加したりもしました。
試行錯誤を繰り返しながら、除々にトレーナーとしての知識を深めていった小松。現在は最上級生として、下級生のトレーナーの指導にもあたる立場でもある。トレーナー業を続けてきた中で、トレーナーとしての現在の自分をどのように見つめているのだろうか。
――トレーナーをする上で気をつけていること
小松:選手の顔の表情や走るフォームを始めとして、普段の何気ない行動でも変化を見逃さないようにしています。ただコーチなどと(選手を)見る観点は違って、あくまで怪我をしないために悪い要素はないかを見ていますね。個人差はありますが一回故障してしまうと、長い間蓄積されてきたものが出ますから、それだけ治るのにも時間がかかりますから。悪くなる前に予防しなければならないのですが、なかなか上手くはいきませんね(苦笑)。現状では出てから処置するというゴテゴテな状態です。長距離の場合どうしても慢性的な怪我が多くなりがちなので、日常生活から重なってくる疲労の蓄積を取るにはどうすれば良いかというも考えています。あと、同じトレーニングでも様々なバリエーションを持つようにしています。例えば腹筋のトレーニングって地味にきついんですよね。でもバランスボールという器具(もともとは腰痛のリハビリ用で人間の腰の位置ぐらいの大きさ。その上に座って安定を保とうとすることによって、自然に腹筋が鍛えられる)を使うと、バランス良く腹筋と背筋が鍛えられるのですよ。そうやっていろいろな器具を使うことによって、選手に面白みを持ってトレーニングをやってもらいます。それもトレーナーのテクニックのひとつではないかと思っています。そういうバリエーションを多く持つことで選手の飽きもこなくなるし、「次は、次は」みたいな感じで興味を持ってくれるじゃないですか。
(続く)
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