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あの人に逢いたい 〜早稲田スポーツOB・OG訪問〜 

サントリー 三枝康志さん(バーベルクラブOB)

前のページより)




 

      新入社員の時のお得意先接待旅行にて。担当酒販店の奥様方と

 こうして就職活動のスタートを切った三枝さん。食品業界を受けて回った彼だが、当時は苦労の連続だった。
  リクルーターとの面接に、繰り返される緊張の毎日。そして、突然降り掛かってきた身内の不幸。重く伸し掛かって来る様々な精神的負担に「心が折れそうになった。」そう振り返る。

 しかし、そこはアスリート。バーベルクラブで培った持ち前の体力や精神力で奮起した三枝さんは見事、食品業界大手・サントリーに内定を果たす。

 だが、その喜びは束の間だった。入社した当初は、わからない事の連続。営業という仕事の厳しさに直面する日々が始まる。

 「入社して初めて任されたのが、板橋区の酒屋さんを回る仕事だったんですけど、始めのうちは全く歯が立たなかったんです。
  取引先のお店は、自分の父親ぐらいの年齢の人が経営する個人商店なんでね。新入社員の僕が行っても、初めは全く相手にされないんですよ。『いきなり来た若造に何が出来るんだ』という目で見られていました。こちらが必死に仕事の話をしていても、まともに話を聞いてもらえないこともあったんです。」
  自分は頑張っている。しかし相手には、全く想いが通じない。社会人になることの厳しさと同時に、何も出来ない自分にやるせなさを感じた。
  「俺、軽くあしらわれているんだなと、その時はすごく落ち込みましたよね。」

 しかし、この経験から数年後、彼は自らの営業スタイルを築いていくことになる。「相手の心に飛び込む営業。」彼が仕事上の極意と語る、そのスタイルを築いてゆく突破口となったのは、一体何だったのか?
  三枝さんは、あるエピソードを振り返る。


 

 「この業界では、取引先のお客様と慰安旅行や懇親会があるんですけど、ある時その席上でボディビルディングのネタを披露したことがあったんですよ。僕が上半身裸になって、学生時代やっていたようにポージングを取って見せた。すると会場の雰囲気は今までとは一転。ドッと盛り上がったんですよ。
  みんな面白がって僕をみてくれていたし、あるお客様からは『サントリーには、おもしろいヤツがいるな』と言ってもらえた。会場にいるすべての人との距離が、グッと近づいたのが実感できたんです。」

 自分にとっては、何気ない仕草。だが、会場にいるお客様にとっては、見た事のないボディービル。いつもとは違う、彼の一面に会場は惹きつけられた。
  この瞬間から仕事上での付き合いも一変したと言う。
  「相手の事務所へ出向いた時、みんな笑顔だったんですよ。僕のことを『サントリーの面白い人』と覚えてくれていたし、仕事を任せてくれるようになった。前よりも仕事がしやすくなったんです。」
 持ち味である明るさと、人に負けないがっちりとした体格。三枝さんはこの経験で、自分自身が持ち合わせる強力な武器を見つけたという。
  「自分が積み重ねてきた経験で、お客様の心に少しでも入り込むことができたんです。これは自分にとって、大きな自信に繋がりましたよね。」



 サークル活動に打ち込んできた学生時代から、今年で15年。卒業後は、営業一筋に歩んできた三枝さん。「仕事では苦労が絶えなかったし、大変だったことも数しれない。」と彼は言う。しかし、「クラブに没頭してきた僕の人生にとって、この仕事はとても意味のあるものだ。」と彼は今、自分自身のキャリアを振り返る。

 「今の仕事は、学生時代の僕からは想像もつかなかったと思いますよ。だって、食品とはいえお酒は、筋肉に一番悪いと言われていますからね(笑)。それに僕は学生の頃、ほとんどお酒を飲まなかったんです。一見して僕の経験とは全く関係の無いもののように思えるでしょ。
 でもね、今振り返ってみると、全く無関係でもなかった。
  筋肉を鍛えてきたことは、仕事の中で活かせているんですよ。商談に行けば、相手は僕の事を一瞬で覚えてくれるし、『いい身体しているけど、何かしていたの?』みたいな会話で、話が盛り上がることもある。今でもバーベルクラブの経験は、営業の仕事をする上で、武器になっているんですよね。」

 トレーニングに打ち込んできたことで、この業界に興味を持つことができたし、今はその頃の経験に、助けられている。そして何よりも、自分の特性を活かして多くの人と接する事ができるこの仕事に、大変なやりがいを感じている。
  「僕はそんな時、思うんです。あの頃、クラブの活動に真剣に打ち込んできて本当に良かったなぁと。」
  そう言うと、彼は手に取った商品のウィスキーをじっと見つめた。そして、一呼吸置いた後、彼はこう言葉を付け加えた。
  「何かに真剣に打ち込むことは、決して悪いことじゃないんだと僕は思うんです。将来、どんな仕事に就いたとしても、僕の経験のようにそれは必ず後々の人生に活かされるものだから。」



 インタビューの最後、三枝さんにこんな質問を投げかけてみた。「今、あなたが目指しているものはなんですか?」。すると、満面の微笑みを顔いっぱいに浮かべ、こう返してくれた。
  「もちろん、家族のために、仕事で成功する事が第一の目標ですよ。
  でもね、僕にはもう一つの夢があるんです。それは将来、自分の職場に入ってきた屈強な新入社員にアームレスリング(腕相撲)で勝つこと。(笑)
  定年間際にも関わらず、若い人にも負けない程の力がある。そして何より頼りがいがある。年を取っても、そんなビジネスマンでいられたら格好いいですよね。」

 バーベルクラブで進路を見つけ、今では食品業界の第一線で活躍する三枝さん。彼の仕事を常に支え続けているものは、ひたすらクラブに打ち込んできたあの頃の経験だった。
  学生時代と現在の職業。どんなにそのフィールドはかけ離れていようとも、彼はこの世界でずっと、活躍し続けることだろう。大きな身体とその笑顔がある限り。

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(TEXT=小垣卓馬、PHOTO=小垣卓馬・三枝康志さん提供)
 


 
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