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――自分自身の走りで優れている点はどんなところだと思いますか?
自分の中で優れてるなと思うところは、「重心移動」だと思います。陸上競技っていうのはただ足を速く動かしても速くは走れないですし、自分の体の中心となる重心が前に進んでいかないと要は速く走っていることにはならないんですね。無駄な力を使わずに体を前に持っていくっていうことが出来ると思うので、それは重心の移動の仕方が上手いのかなっていう感じはあります。自分の体格を見ても、筋肉で前に押していく走りでもないですしそういう体格でもないので、それでも前に進むっていうのは、接地のタイミングや体の使い方などを用いて重心移動させていくのが上手いからだと思います。
――江里口選手の走りは、癖のない美しいフォームが印象的です。 あまり形をきれいにしようとかそういうことは頭にはないんですけど、足を突くタイミングに合わせて体を動かしていくタイミングというか、上半身と下半身の連動、その体の使い方とか、そういうものを自分の中でここが一番いいタイミングなんじゃないかなって思って作っていった結果が今の形になってると思います。結果としてフォームがきれいだって言われるのは嬉しいことですけど、極端な話、もっと(フォームを)汚くしても速く走れるなら、別にその汚い走りでもいいなとは思います。形はあまり気にせずにやっていますね。
――昨年までに比べて、体が大きくなった印象があるのですが。 僕の中では、走り始めて変にパワフルになったとかいうものはあまりないんですけど、見た目については、色々な人から「去年よりまた体が大きくなったね」って結構人からも言われますし、筋力が増えた分、実際走り始めて体の軸が安定するというか、スピードに乗っても同じ動きを繰り返せるようになったかなって思う部分はあります。自分で自分の体を使えるようになってきた感じがありますね。
体重は去年までは大体59kgを切るぐらいシーズンをやっていたんですけど、今は大体60.5kg位で、1.5kg位は増えてると思います。関係があるのかは詳しくは分からないですけど、やっぱり記録が伸びてる年ってそれなりに体重も増えてるところがあるので、そういう点で見ても、体重は自分の中で一つの基準になるかなと思ってます。
――今後さらに上を目指すために必要なこと、課題はどんな点だと思いますか? スプリンターとしてやっていくのであったら「トップスピード」、一番自分の速い速度を上げなきゃ勝負できないと思っています。速度を落ちないようにする走りも大事なんですけど、やっぱり最高速度を高められるような練習、走りを求めていきたいなと思います。
――ここからは日本選手権(6/25〜28、広島で開催)についてお伺いします。日本選手権では過去2年連続で決勝進出されていますが、この大会の印象は?
初めて出た1年生の時は自分の実力がよく分からないところだったので、とりあえず出たみたいな感じで、「どこまでタイムと順位が出るのかな」っていう程度で自分でもあまり深く意識した試合ではなかったんですけど、走ったら5番に入ったんですよ。その時は3番位までに入れば世界選手権の代表には選ばれていた可能性もあったので、そこで初めてその日本選手権の重要さや自分の日本代表までの位置というものが確認できた試合でした。
そこを踏まえて2年の時の日本選手権は、順位を狙いに行くような、「こういう順位と記録を狙いに行く」っていう設定をして臨んだ大会でした。そのスタンスは今年も基本的には変わらないので、日本選手権では結果を求めていきます。僕は世界選手権の参加標準記録(A標準:10秒21、B標準:10秒28)をまだ切ってないので、結局順位も記録も狙わなきゃいけないんですけど、やっぱり予選、準決勝でいくら記録が良くても、決勝で7着、8着をとるような選手だったら選ばれはしないので、勝負強さっていうものを発揮できるような試合にしたいです。
――今年の日本選手権の開催地である競技場(広島広域公園陸上競技場)は記録が出やすいと言われていますが。 走っている側としては、トラックの硬さが一つの判断基準になります。柔らかいトラックだと、走った後の足のダメージとかも少ないんですけど、逆に硬いと反発が強い分、どこか筋肉に張りが出てくるようなところがあるんですね。この間織田記念で走った時は、前日に同じトラックで刺激入れとして体を動かしたんですけど、そこでいつも通り動かしたかなって思った状態でも足に張りとかが残ってたので、そういう点では速度はすごい出る競技場だと思います。でもその分ダメージがあるので、その点も考えながら、自分の体に敏感になって走り終わった後のケアをしっかりやっていかないと勝てない試合だと思うので、やれることはやろうと思っています。
――日本選手権ではどんな走りをしたいですか? 自分の中でモチベーションを高める意味でも「順位を狙う」と自分の口でも発しますし、もちろんそれを狙ってはいるんですけど、順位を狙っていると言っていた自分ともう一人、自分のことだけに集中していくような自分を作っていかないと、本番で周りが気になって自滅する形になると思うので、本番では自分の走りを100mの中でどう組み立てていくかっていうことを常に意識しようかなと思っています。
――最後に、意気込みをお願いします。 日本選手権ではもちろん決勝で10秒21のA標準、それ以上のタイムを出して勝って、実力で(世界選手権の出場権を)勝ち取れるよう走ります。世界大会だけを目指すんだったらまだ2年後とか4年後もあるんですけど、僕は(ワセダの)「W」を胸につけている年に世界大会に出たいので、今年の世界選手権には「早稲田大学の江里口」として出たいと思います。
今までの競技生活を丁寧に振り返りながら、陸上競技の魅力を熱心に語ってくれた江里口選手。その姿からは、直線100mをひたすらに駆け抜けてきた短距離選手らしい気持ちの「真っ直ぐさ」を感じた。
そんな彼が並々ならぬ決意を胸に挑む今年の日本選手権。日本代表に選ばれるだけの力は十分に備わっている。今シーズン取り組んでいるという新たな走りを完成させ、自らの手で世界への挑戦権を掴み取ってほしい。
3/3
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