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あの人に逢いたい 〜早稲田スポーツOB・OG訪問〜 

漕艇部OB 株式会社電通 松本隆光さん

前のページより)




 

思いが込められた部誌を眺める。

 ボート漬けの生活を送っていた松本も、卒業後の進路を選ぶべき時がきた。徹底的に自己に向き合い、分析を始めた。俺はなぜ野球が好きなんだろう、ボートが好きなんだろう?「なぜ?」を突き詰めた。そして、出た答えは「やっぱり俺はスポーツで感動させたいんだ」。何だかんだいっていつもスポーツに触れてきた学生時代。「自分自身がパフォーマーとしてやっていけたら最高だけど、プロになれるわけでもないし。といくと、スポーツの感動を伝えるところに、自分が携われていたらきっと楽しいだろうなって」。

 そして、「オリンピックや世界選手権を扱っている会社」として、大手広告代理店の電通と出会う。現役の社員に話を聞くと、「普段の仕事は苦労しかないし、華やかな世界なんて全然ない。でも、プレゼンに勝ったときの喜びは何ごとにも変えがたいよ」。ボートに似ている、と松本主将は思った。

 たった6分で終わってしまう、2000メートルのレース。3日間でも休むと毛細血管が縮んでしまうので、継続して辛いトレーニングを重ねる。負ければそこには何も楽しさはない。勝つことしか許されないが、その代わり後に得る喜びは測り知れない。


 

       現在は早慶レガッタの広報なども行い、 後輩をサポートする。

 「憧れと興味だけで受けた」という松本だが、電通一社のみに絞った末見事内定する。現在は、大手携帯電話会社をクライアントに、営業職として働いている。ここ11年間で携わった仕事は、オリンピックや東京国際マラソン、世界陸上などにクライアントをつけること。入る前に描いていたことが、今できているという松本は、「俺はあんまり、仕事を仕事と思ってないんだよね」と穏やかに言った。「そういう意味では、もう公私混同に近いの。だって、やりたいことをやってるんだからさ」。

 やりたいことを仕事で実現するまでには、多くの忍耐が必要だ。そこには4年間の漕艇部生活で培った要素が、非常に生きているという。ボートは単純な動作の競技だが、一度体勢が崩れるとたちまち遅くなってしまう。どんなに厳しい状況でも、冷静に動かなくてはいけない。更に、クルー全員で挑むため、どんな状況でも明るく振舞わなくてはならない。その精神は、社会という広い海を渡る上でも役立っている。

 松本は、「ボートに比べたら、仕事なんて辛くないよ」と真顔で話す。「仕事なんて本当の競争じゃないから」。目が回るほどの忙しさだと耳に挟む電通の仕事を、「辛くない」と言える心身をかたち作る早稲田の漕艇部。やはり、並の人間が集まる場所ではないようだ。「もともとボートは、イギリスのガレー船からきてる競技なんだよ。奴隷が漕いでたの」。屈強なわけである。

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(TEXT=田辺里奈、PHOTO=池田恩)
 


 
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