「今年の1区は荒れる」。区間エントリーが発表されたときからそう評されていた。早稲田のエース、大迫傑(スポ4)を警戒した各校の指揮官が、こぞってエース級を1区に投入してきたのだ。学生駅伝ファンならば誰もが心を躍らせるような面々がスタートラインに並び、第90回箱根駅伝がスタートした。
戦前に予想されていた通り、号砲とともに大迫が先頭に立ちレースを引っ張る。大迫は1キロを2分49秒、3キロを8分33秒と区間新ペースで刻んでいき、集団は序盤から縦長になった。しかし優勝候補と目される日体大、駒沢大、東洋大などの有力校はしっかりとついてくる。集団から零れ落ちた最後方のチームすらも1キロ3分を切るペースであったことからも、今大会の1区がいかにハイレベルであったかがわかるだろう。10キロ過ぎに青山学院大のルーキー一色がスパート、集団は7チームに。大迫もしっかりと対応し、集団の中ほどにつける。ずっと集団を引っ張ってきた大迫はここで少し休めるかと思われたが、やはり今年の1区は甘くなかった。15キロを通過すると、昨年の覇者日体大の次期エース・山中がしかけ、ペースがあがる。このしかけにはなんとか食らいつくも、18キロ過ぎの東洋大・田口のスパートに対応しきれず、大迫は徐々に離されてしまう。最後に駆け引きを制したのは日体大。1時間1分24秒の好タイムで連覇へのスタートを決めた。続いて駒沢大、東洋大、明治大ときて、大迫はトップから50秒遅れての5位で襷を繋いだ。
エース区間、花の2区を任されたのは高田康暉(スポ2)。上尾ハーフで3位入賞するなど好調で迎えた初の箱根路。大迫が5番手でやってきたのはやや誤算かもしれないが、高田に焦りはなかった。中継所の時点ですぐ前をいく明治大とは12秒差があったが、その差を一気に縮めて並走。実績のある明治大のエース大六野とともに前を追う格好となった。先頭は6キロ過ぎに駒沢大・村山が日体大・本田をかわしトップへ。そして後方では快調に飛ばしていたかに思えた山梨学院大・オムワンバが足を止め、沿道に倒れこむ事態。右足腓骨の疲労骨折で無念の途中棄権となった。
早稲田と明治は並走しながら前の東洋大に迫っていく。ペースの上がらない日体大も近づいてきて、4校で2位集団を形成。まもなく集団から日体大がこぼれ、早稲田、明治、東洋での2位争いとなる。3校で権太坂を通過し、その後東洋大・服部勇がペースを上げる。明治はそこで離されるが、高田はしっかりと対応。「服部と一緒に駒沢大を追っていこうと話していた」という高田、その言葉通りにうまく競いながらトップを行く駒沢大との差も徐々に詰めていった。惜しくも追いつくまでは至らず、駒沢大がトップで中継。高田は最後まで東洋大と競り合い、最後は2秒先行を許すも、トップと29秒差の3位で襷リレー。エース区間で見事に役割を果たした高田は1時間8分17秒で区間賞を獲得。早稲田が2区で区間賞を獲得するのは2007年の竹澤健介(現住友電工)以来だ。
近年、往路の主要区間として有力選手が多く配置される3区。早稲田は出雲・全日本でも好走したルーキー・武田凜太郎(スポ1)が登場。前をいく駒沢大・油布と東洋大・設楽悠はどちらも3区を経験している実力者。速いペースで刻んでいくが、武田は落ち着いた走りを見せる。先頭は10キロ付近で東洋大が駒沢大をかわし、徐々に差を広げる。武田はトップとの差が1分近くまで広がってしまうが、持ち味の安定感を活かした走りは健在。先頭は東洋大が差を広げてゆき、3年連続の箱根駅伝区間賞となった設楽悠がトップ中継。56秒差で駒沢大、武田は1分50秒差まで広げられてしまうものの3位をキープして同じ1年生の平に襷を渡した。武田の記録は1時間4分0秒の区間5位。出雲4区5位、全日本5区4位に続いての区間上位、武田の安定した力が発揮された。
4区は平和真(スポ1)。仲の良いチームメイトでありライバルという武田から襷を受けた平は終始精悍な顔つきで最短区間を駆け抜けた。6キロ付近でうしろから明治大・木村が追いついてくるが、平は動じることなく淡々とリズムを刻み、しばらく並走したのち置き去りにした。トップ東洋大との差も徐々に縮め、3位をキープしたまま襷を繋いだ。高校時代から大舞台の経験は豊富な選手。その経験が活きたのか、ルーキーらしからぬ冷静な走りで区間2位。4区の早稲田記録も更新した。
5区を任されたのは高橋広夢(スポ3)。2年連続で5区を好走していた山本修平(スポ3)が直前の怪我で出場を回避。最長の山のぼり区間、同じ3年生の高橋が抜擢された。近年かなり重きを置かれているこの5区、各校がのぼりのスペシャリスト、あるいはエース級の選手を配置している。昨年は日体大・服部の5区区間賞の走りが総合優勝を大きく手繰り寄せた。今年も強力なメンバーが集い、1区が対大迫布陣というならば、5区は対服部布陣といったところだろう。
先頭の東洋大、追う駒沢大はそろって軽快なペースで駆けてゆき、落ち着いた入りの高橋は離されてしまう。9.5キロ地点の大平台では区間17位ペースと苦しい走りかと思われた。しかし23.4キロの長丁場、粘りが持ち味という高橋はペースを落とすことなくのぼって行き、うしろを走る明治大との差を徐々に開いていく。さらに後ろからは日体大・服部が追ってくるが、4区までの貯金は十分だった。
大観衆の芦ノ湖、トップでやってきたのは東洋大。設楽啓が区間賞の走りで2年ぶりの往路優勝を決めた。59秒差で2位駒沢大、そして早稲田が往路フィニッシュ。トップと5分8秒差、5時間32分22秒の3位だった。高橋は区間12位と最後に粘りを見せた。
往路を終えて、早稲田は3位。トップとの差は5分8秒と、明日も厳しい戦いになりそうだ。しかし出雲、全日本と今季の早稲田は常に追い上げるレースを見せてきた。ライバル校も強力ではあるが、早稲田もまだまだ強い選手が控えている。総合優勝を目指してやってきた1年の集大成。復路では今季の早稲田らしい追い上げに期待しよう。
2014年第90回東京箱根間往復駅伝競走
往路個人記録
区間 |
氏名 |
学年 |
学部 |
出身 |
個人記録 |
区間順位 |
チーム順位 |
1区 |
大迫傑 |
4 |
スポ科 |
東京・佐久長聖 |
1.02.14 |
5 |
5 |
2区 |
高田康暉 |
2 |
スポ科 |
鹿児島・鹿児島実業 |
1.08.17 |
1 |
3 |
3区 |
武田凜太郎 |
1 |
スポ科 |
千葉・早稲田実業 |
1.04.00 |
5 |
3 |
4区 |
平和真 |
1 |
スポ科 |
愛知・豊川工業 |
55.03 |
2 |
3 |
5区 |
高橋広夢 |
3 |
スポ科 |
東京・東大附属 |
|
12 |
3 |
|
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|
|
計 |
5.32.22 |
|
3 |
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