WasedaWillWin.com


【5】質問タイムその3「企業とスポーツ」

【4】質問タイムその2「所沢の総合スポーツクラブ(2)」

【3】質問タイムその1「所沢の総合スポーツクラブ(1)」

【2】2時間目 「日本のプロスポーツ」

【1】1時間目 「スポーツ経営学概論」

教授のプロフィールへ

 

 

 

 木村教授(以下教授):それではスポーツ経営学についての授業を始めましょう。改まって話すと緊張しますね(笑)。まず、スポーツ経営学という学問の生い立ちからお話します。この学問は、日本では「スポーツ経営学」、アメリカでは「スポーツマネジメント」と呼ばれています。名前は一緒ですね。普通だとアメリカの輸入学問みたいな感じで生まれるじゃないですか。でもこれは、全く無関係の流れで生まれたんです。

「体育学」の時代

 昔日本では、スポーツ科学のことを「体育学」と呼んでいました。「体育史」とか「体育社会学」とか。その体育学の1分野として、「体育管理学」というのがあった。これが、スポーツ経営学の元となる学問です。どういうものかと言うと、スポーツや体育をする環境を管理する学問でした。でも、これは例えば用具の管理とか、施設用具の管理、他には運動会のやり方だとか、ラインの引き方だとか、そういう決まりきったことが中心で、名前の通り管理する側からみた話だったわけです。というのは、この学問は学校の体育の先生になるための教養の一つだったんですね。だから研究領域も学校の体育だけでした。民間の施設経営なんてやらないし、プロスポーツなんてもちろんない。でも、一番最初はそんなだったんです。

スポーツ経営学へ

 ところがその流れに対して、当時筑波大の先生だった宇土正彦っていう人が異を唱えた。1970年に『体育管理学』っていう本を書いたんですが、その中で、スポーツをやる環境を整えようと考えたら、もっと民営的な発想、スポーツをサービスとして提供する営みが必要だ、ということを主張したんです。
 表題は『体育管理学』と今までと変わらないんですが、それまでの「管理学」にはなかった、運動する側の子供たちとかっていう、「参加する人」の話をこの本で初めて入れた。つまり、スポーツをする側の欲求とかライフスタイルとかを見ないと、いいサービスは提供できない。スポーツという商品は売れない。そういう考え方をしたんです。ものすごく新しい発想だったんですが、残念ながらあまり受け入れられませんでした。何で宇土氏はそんな見方をしたかというと、この人は最初から体育学やっていたわけではなくて、心理学出身なんです。やっぱり、心理学出身だからニーズとか欲求とかそういうものを無視して、体育なんて考えられないというのがあったんでしょう。だから日本の場合は1970年にこの本が出てから、「スポーツ経営」という考え方が始まったと言ってよいでしょう。

スポーツをサービスとして?

 スポーツをサービスとしてと言っても、イメージが沸きにくいのではないでしょうか。サービスって聞くと、どうしても営利の企業を思い浮かべてしまうんじゃないかと思います。でも、よくよく考えたら学校だってそうなんですよね。学校だって先生がいて、施設を用意し、何か活動内容プログラム、例えば部活だったり、運動会のようなイベントやったり、校庭を管理したりして、スポーツというサービスを提供している。簡単なことを言えば、ある生徒が例えば陸上競技をしたいのに、学校に陸上部がなければ、それをすることができない。そうしたら「陸上競技というサービス」を、言ってみればその生徒は買えないわけですよ。だから学校という非営利組織でも、そういうことがある。スポーツをサービスとしてとらえ、する側のことまで考えた仕組みを組んで提供しないと、子供たちのスポーツの活動が活発になっていかないんです。

経営学の誤解を解く!

 「経営」というのは領域として営利、非営利両方が含まれるわけです。経営っていう言葉は、どうしてもお金のイメージがあるかもしれません。でも、この本にお金の話はあんまり出てこないんです。むしろ重要なのは人の問題。さっき言った「参加する人」の行動の問題と、もう一つは組織の問題。経営組織論みたいな話があります。その点はアメリカも同じです。

スポーツ経営学を生かす「場」はあるのか

 それで、最後に重要なのがこのスポーツ経営学を学んだはいいが、生かす場所があるかということです。アメリカの場合だったら、プロスポーツの世界や、民間のスポーツクラブとかイメージ通りのところで生かすことができます。管理者になろうと思ったら、大学で学んでMBA(経営学修士)を取ったりしないといけません。ところが日本の場合、スポーツ経営学が先生を育てるという「管理学」から生まれたためか、教員になるケースが多く見られます。また日本社会の場合、マネジメントというのを専門職として認めているかっていうと、残念ながらそうではありません。それがスポーツ界にも言えるんです。だから本当にしっかりとした経営を行おうと思ったら、日本社会がマネジメントというものを専門職として考えるようにならないといけませんね。

 

木村和彦特別講義に戻る

 
WasedaWillWin.com HOMEへもどる