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【5】質問タイムその3「企業とスポーツ」

【4】質問タイムその2「所沢の総合スポーツクラブ(2)」

【3】質問タイムその1「所沢の総合スポーツクラブ(1)」

【2】2時間目 「日本のプロスポーツ」

【1】1時間目 「スポーツ経営学概論」

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つづいて2時間目、『日本のプロスポーツ』。日本のプロスポーツ、プロ野球とJリーグについて考えてみたい。両者ともに抱える問題は多い。その中でも、プロ野球は「巨人」、Jリーグは「鹿島アントラーズ」の経営について、また最近のスポーツ運営組織の抱える問題を解説してもらった。

 教授:今度は日本のプロスポーツについて、お話しましょう。今日本にはプロ野球とJリーグという2つがあります。まずはプロ野球から。

プロ野球は危ない!

 プロ野球は現在読売巨人が、圧倒的な戦力と資本を持って、一人勝ちのような状態です。また他のセ・リーグの球団も、巨人に寄りかかって何とかやっている。巨人に頼れないパ・リーグの球団はみんな赤字になっています。ですが、巨人1つで成り立つ状態というのは日本のプロ野球という、ある一つの業界の中だけでやっている限りだと思います。もしグローバル化されてしまったら、とてもじゃないけどやっていられないでしょう。でも今は、優秀な選手がどんどんメジャーに行ってしまって、「プロ野球」という壁は作ろうにも自然に解けていっちゃっています。壁の中だから巨人1チームで成り立っているわけです。というのは、壁がなくなって世界にいったら、巨人なんていって喜ぶ人なんか誰もいないわけですから(笑)。日本だけですよ、しかも東日本くらい。「日本テレビ」のネットワークの強いところで育てられた、私のような人間が喜ぶだけです(笑)。だって私の出身の山形なんて、巨人の試合しか放送されませんからね。ある意味洗脳ですよ。

巨人の経営手法

まあ、でも視点を変えるとこれは、限られた範囲内でのすごい経営手法だと思います。しかも手法としてすごく近代的だと思うのは、メディアと組み合わせたというところです。これを世界的なメディア王マードック(ニューズコーポレーション社長)とかは、今ごろになってやっているわけですからね。それを正力松太郎(初代・読売新聞社社長)さんが60年前にやった。これはすごいですよね。最初は販売促進のひとつだったんでしょう。そのスポーツ記事が載っていたら読売新聞が売れるから。だから球団を持ったわけですよ。だから未だにその名残で巨人軍には営業部がありません。チケットセールス等は「読売新聞社」がやっています。読売新聞社が持ってコントロールするわけです。チケットが手に入り難いようにする。だから巨人のチケットを売っているのは、「東京ドーム」と「読売新聞」の小売店だけ。あとは販売促進で出回っているのしかないでしょ。「チケットぴあ」や「チケットセゾン」で売っていないんですよ。一番売れるものが一番流通に乗っていない。ちゃんと戦略があるわけですよ。紙をプラチナ化しているわけです。でも他の球団がやろうとしてもだめですよ。巨人だからできるわけで。メディアを使ったブランド化に成功して、そのブランドを維持するためチケットコントロールをする。やり方が汚いように感じるかもしれないけれど、大変な経営ですよ。ある範囲の中で、これだけの労力をかけて、絶対にそのブランドを崩さないようにっていうことをしているわけです。

優等生アントラーズを斬る

 Jリーグの場合、鹿島アントラーズが地域密着と成績の両方の面で成功しているから、よく優等生と言われますね。クラブの理想であるかのように思われている部分もある。しかし、経営的に見たときには、鹿島はかなり行政からの支援を受けているんですよ。例えば、スタジアムだって茨城県が作りました。県が作ったのはいいけど、じゃあなぜ鹿嶋に作ったのって話になるわけです。他のところ、例えば土浦市とかにも作ってもらえるの?って話になって、作れないってことになったら、おかしな話ですよね、逆に言うと。そういう点からすると、鹿島は、「クラブが成功するためには、必ず行政の支援を必要とする」っていうモデルでしかない。じゃあ、スペインの「FCバルセロナ」はどうなのってことなんですよ。自分たちで大きくなってきて、もちろん行政が絡んだ時期もあったと思うけど、今は10万人のソシオ(会員)が支えている。こういうクラブもあるんです。そういうところからいうと鹿島の場合、赤字をだしたときにやっぱり親会社が、一番大きなところでいうと、住友金属や鹿嶋市が必要になる。クラブが育つモデルっていうのは一つに限る必要はないと思うし、あれが理想かと言われると、もっと色んなパターンがあり得るんじゃないかと思いますね。

スポーツ文化とスポーツ経営学

 ですがどんな場合でも重要になってくるのが、そこの地域で文化になっているかどうか、ということなんです。つまり、地域の市民がお金を出してでも残したいと思うかっていうことです。「これを後に残したい、子供たちにも残したい」と思えるかどうか。「なくしたくない、この町にこれは必要なんだ、お金を払ってでも継承していくんだ」と思えるかどうかなんです。最近では出てきましたよね、日光アイスバックス(アイスホッケー)とか横浜FC(J2)とかが良かれ悪かれ話題になっていますよね。でもそういうところに、「本物」が生まれるんじゃないかなと思うんです。で、それをいかにマネジメントできるか、そこにスポーツ経営学の果たす役割は大きいと思います。

スポーツ運営組織における新しい経営課題

 それに関連して最近では、スポーツ組織で新たな課題が生まれつつあります。例えばオリンピックやJリーグでは、たくさんの地域住民がボランティアとして運営に参加しています。でもそこで問題になってくるのが、例えば通訳として同じ仕事をしているのに、片方はプロでお金を貰って、もう一方はボランティアとして交通費くらいしか貰えないとか。つまり、ボランティアとプロとが一緒になって活動していくことの難しさ、そのマネジメントの難しさっていうことです。こういう形はこれからどんどん増えてくると思うし、いろいろ考えなければならないことが多いですよね。

 

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