1998年に横浜フリューゲルスの消滅を象徴に、いろいろなスポーツで実業団チームの廃部、休部が相次いでいる。企業スポーツの限界が露呈し、新しいスポーツのあり方が模索されている。今まで日本ではスポーツはどうとらえられていたのか、これからのスポーツはどうあるべきなのか、そしてスポーツ経営学はそれにどうかかわっていくのか、インタビューの締めくくりに聞いてみた。
――今まで日本の場合、企業とスポーツの関係が強かったと思いますが、今後はどうなっていくと思われますか。
教授:企業は経済活動に専念しようとしている。それ以外のことは、できるだけ排除していく方向で。つまり日本の場合企業経営者は、何でもかんでも面倒を見てきたわけだ。そういうのから、企業というのは生産活動に専念するもんなんだということで。そうしたときに運動場とかっていうのは大学と同じで重荷なわけよ。だって従業員が使えるのって土日だけでしょ。平日なんてがらがらなんだから。これだって本当は地域の人たちに開放して、地域の人たちのお金でちょっとでも減らせれば。企業もそう思っているよ。だって自分たちで抱えるの嫌だもん。
――逆にいえばスポーツだけをサービスとして出せるようなところが、出てこなくちゃいけないってことですよね。
教授:うん。あんなの従業員だけの福利厚生施設として持っていたって、もったいないじゃない。だからあれを地域にサービスを提供する経営体として、独立させればいいんだよ。それで100%回収できなくたって、今までよりは負担が軽くなるんだから。しかも従業員も使えるわけでしょ。大学の施設と同じじゃない。学生が使いながら、空いている部分を地域に支えてもらう、そういうふうにしていけば。所沢クラブの会費制度っていうのは何かっていうと、スポーツを自立させる第一歩なんだ。今までの日本のスポーツっていうのは全てお願いするか、寄生するかだった。
――詳しく説明していただけますか。
教授:学校でスポーツをやるって場合、我々はお金を払わなくてもできると思っているでしょ。指導者は誰か先生が必ずついてくれるし。自分でお願いもしていないでしょ。そういうところでやってきた、これがまず第1の経験だね。それから従業員になったら、会社がすごくいい施設を持っていて、お金を払う必要がない。地域に行ったら、税金で迂回しているもんだから、1回100円とか300円とか。そんなもんで賄えているわけないでしょ。実際には税金で補填しているんだから。でもダイレクトに払っていないから、なんか安くできるなと思う。で次が民間のスポーツクラブ。これだけがダイレクトにやっているでしょ。でもそれにしたって、今はディスカウント競争で、すごく安くなっていて払っている気がしない。
――改めて考えてみるとそうですね。
教授:スポンサーをつけるときもそう。お願いして、寄りかかっているとスポーツの価値以上のお金を払ってくれる。でも、そういう環境をやめましょうよ。広告をお願いするんじゃなくて、ここにこれだけの広告を出したら、あなたにとってこれだけのメリットがあるんだから、当然これだけのお金を出しなさいっていう対等な契約をするんだよ。話を戻すけど、ちゃんと会費を払うようになることで、スポーツが対等になる。もっと言いたいのは、スポーツの価値をちゃんとお金を払って買いなさいってこと。地域住民が、スポーツの価値っていくらなの、っていうのを自覚しなきゃいけない。スポーツが自立するために。子供たちにも残したいって思うのか。
――それが文化だと。
教授:スポーツを残したいって思うかどうかなんだよ。一部の競技団体の役員の人ではなくて、みんなが残したいと思うかどうか。で、そのためにはお金がいるよと。
――残すためのツールがスポーツ経営学であり。
教授:社会科学の学問なんてそこに行かないとだめだよね。そこにいくんじゃないの。
――所沢クラブで実践していって。
教授:経営学の場合だったら、本を読んでいてもだめだからね。今日だっておじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさん、お兄さんお姉さんのところに、行って。ああだこうだ言われてきた(笑)。
――それでは、最後に今後の早稲田のスポーツに一言お願いします。
教授:ある意味では早稲田大学っていうのは、これまでの日本型スポーツの代表。外の仕組みに支えられていたっていうのが多いわけだよな。周りのOBにお願いをして体育各部を運営したり、法律が変わったら一般教養の体育を縮小してしまう。でもそれって文化じゃないじゃん。文化っていうのは、自分たちでこれがなくなっちゃうと困るからって残すでしょ。ちゃんと自立して、新しい早稲田文化を創っていかなきゃ。進取の精神ですよ。
今日、長引く不況の影響で企業が手を引き出したことで、スポーツは好む好まざるにかかわらず自立を迫られている。自立の準備ができていないものは、どんどん淘汰されている。また、Jリーグが始まって以来、総合型スポーツクラブへの期待は高まり、さまざまなところで実現に向けて試行錯誤が行われている。「スポーツ」というかけがえのない「文化」を守るためにも、多くの人がスポーツを楽しむためにも、スポーツ経営学が果たす役割は大きい。これからのスポーツ界を背負っていく人材の育成を、木村教授には大いに期待したい。
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