ここから、質問タイムに入る。質疑応答は実にフランクな雰囲気で進められた。
昔は早稲田で練習をしていたいろいろな部活も、今は東伏見や所沢キャンパスの方で練習を行っている。それによって、早稲田のスポーツは早稲田キャンパスの学生から遠ざかった。それどころか試合会場が神宮外苑であったりするため、所沢の学生からの距離もまた遠い。今早稲田のスポーツは、両キャンパスの学生から遠ざかった不幸な状況にある。そんな時、2000年早稲田大学(教員有志)は所沢市と共同で、総合型地域スポーツクラブを創設した。大学の施設を使って運営されるこのクラブに、さまざまな方面から注目が集まっている。現在テニスや陸上競技等10種目と多岐にわたるスポーツを楽しむことができ、それぞれ専門の大学教員や体育各部部員による質の高い指導を受けられる。この試みは今までになかった所沢地域住民との交流を創造し、早稲田のスポーツに新たな可能性を提示している。ここでは、所沢の総合スポーツクラブについて中心に聞き、最後に学校スポーツに関する提言も聞いた。
中央図書館、ここにかつては安倍球場があった。
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――学生にとってやっぱり距離が遠いっていうのは大きいですよね。
教授:つまりさあ、昔だったらね、「安部球場」(現・中央図書館)とかさ、大学に行けばそこで練習やっている声が聞こえていたわけでしょ。「カキーン」ていう音がしていたと思うんだよ。そうしたらさあ、身近にも感じるんじゃない。体育各部が東伏見や所沢に行っちゃったから、今のような状態になっているわけで。本当は動くべきじゃないんだよね。「大学スポーツ文化」という観点から見たら。今体育の授業で複合スポーツというのをやっているんですよ、場所は早稲田の近く喜久井町というところで。その授業は火曜日なんだけど、去年はたまたま早慶戦が火曜日までずれ込んできたことがあった。それで生徒に、「今日早慶戦だから行ってもいいよ、出席にしておいてやるから」って言ったんだけど1人しか行かなかった。3クラスで100人くらいいるのに、だよ。早慶戦くらい授業を休んでもいいと思うんだけど(笑)。それだけ、早稲田のスポーツと疎遠になっているんですよ。
――でも野球はまだ神宮でやるので行きやすいと思います。他のスポーツも大学や近くの施設で試合をやれば、もっと行けるようになるんじゃないかと思うのですが。
教授:でもだいたい日本の大学で、観客席のついた施設を持っているところなんてないでしょ。アメリカは、「エンターテイメントを提供するんだ」という施設の作り方をするけどね。実は今日も所沢テニスクラブ(前出スポーツクラブの1つ)の幹事の人たち10人くらいに、わざわざ東伏見まで来てもらったんだけど、庭球部の拠点がそこだから。そこの室内コートで庭球部のレギュラークラスが練習していたわけ。そうしたら皆さん目を丸くしてさ、十分見る価値あるよ、って言うんだよね。
――はあ。
人間科学部のスポーツホールの風景
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教授:でもそれをサービスとして提供していないだけなのよ。おじさんたちにとってはさ、早稲田には大学のトップレベル、インカレ優勝するくらいのがいるわけだからさ、その人たちがボレーをやっていただけでも、みんなびっくりしちゃって。そうしたら、まあそんなにうまくはいかないかもしれないけど、じゃあ明日自分もやってみようかなってなるわけじゃない。でもその庭球部みたいなのを見るための観客席ってありますかって、ないでしょ。競技力とか言いながら、見る人たちも含めた形にはなっていないよね。まず大学で試合やっていないでしょ。おかしいじゃない。だから地元意識なんてないのよ。施設の一般開放とかもされていなかったし。だからこれ(所沢クラブ)が大切なのよ。所沢の陸上トラックで、競走部の箱根駅伝に出るような人たちが練習している環境で、小学生とか老人の方も走っている、そういうのが僕の理想だね。
――選手も一般の人も一緒に活動する場を提供することで、お互いにとっていいことがあるわけですね。
教授:今選手は、一般の学生なんて誰もいない、誰も見られないところで練習をやっている。だから早稲田は弱くなったんじゃないのかな。僕が所沢クラブでやりたいのは、人に見られているところで選手に練習させてやりたい。競走部とか他のも全部。だれも見ていないところでやっていたらさ、やっぱりちょっと怠けてしまうし。注目されていたらさ、これスペクテイター効果っていってね、やっぱり練習効果も違うんだよ。そうなっていったら、例えば競走部とかで将来はファンができちゃうかもしれない。子供に「どんな選手になりたいですか」って聞いたら、カール・ルイスとか言わないで、「早稲田の○○選手です」って答えるような。そういう相乗効果をやりたいんだよ。
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