ＳＪになるために必要なものとは、試合中どういうことをしているのか、大変なことはなんなのか、そういった実際ＳＪを目指す上で重要なことが今まではあまり知られていなかった。本講演会のメインテーマＳＪへの道である。

ＳＪのお仕事

仕事の種類によって試合の見方は異なってくる

　これからジャーナリスト的な仕事をするのに、どういうことが必要かということをお話します。まずそのスポーツの試合を見て何が起こったかを把握する。何をやるにしても、これは最低やらなきゃいけないことです。選手のところにインタビューに行くにしても、その選手が今どういうプレーをしているか、昔どういうプレーをしていたか、それに基づいて話を聞かないことには、その先どういうものを書くにしても、成り立たないと思います。まずサッカーなら、サッカーというスポーツの試合を見て、一体そのプレーにはどういう意味があったのか、なぜそういうことが起こったのか、そういうことを分析できること、そういうのが最低限必要なことだと思います。

　そこで、よく質問を受けるし、自分でも思うことは、一つは選手経験がないとＳＪにはなれないのか、ということです。結論から言えば、ＳＪをやる場合には必ずしも必要ではない、と思います。私も草サッカーレベルの選手しか経験したことがありませんし。

　２年前にフランスに行ったときに、ジャン・ミッシェル・ラルケという人に会いました。この人はサンテティエンヌ(００〜０１シーズン現在フランス1部リーグ所属)が最初の黄金時代を築いたころのセンターフォワードだった人で、フランス代表でも活躍した人です。今はフランスの有名なサッカー雑誌『オンズ・モンディアル』の編集長をしています。その人に、「あなたは選手だったということが、今の仕事にどの程度役に立っているか」、という話を聞いたことがあるんですけど、彼はテレビやラジオの解説もやっているんですが、「テレビやラジオの解説をする場合には、選手だった経験というのは、非常に役に立つ。だけど、ジャーナリストをやる場合は、元選手であっても勉強していない人はだめだし、選手経験が全然なくてもちゃんと勉強している人はきちっとした仕事ができる」、と答えてくれました。

　ＳＪっていう仕事は、新聞記者じゃなければ、基本的には試合が終わってから記事を書きます。つまり、結果が出てから「何故そうなったのか」、という考え方で記事を書くわけです。

　ところがテレビの解説っていうのは、試合が終わる前に、プレーが行われたらその直後にその意味付けを話さなければならない。これは選手のやっていることと同じなんですね。選手は試合が行われているときに、その試合展開を見て、読んで、次にどういうプレーを選択するかということを、常に考えながらプレーしている。それと非常に似ているんですね。だから解説の仕事は、「選手だった経験があるほうが絶対有利だろう」とラルケが言ったわけです。そういう意味でライター、ジャーナリストという仕事は、もちろん選手経験があれば有利なことだとは思いますけど、なくてもできると思います。

　それからもう一つ、テレビの解説者っていうのは、大体元選手の人たちが多いですよね。じゃあ、選手経験があればみんなそういうことがうまくできるか、っていうと、まあ、ご承知のように選手としては偉い人でも、解説者としてはあまりうまくない人はいっぱいいますよね。つまり、選手やコーチと、ＳＪとか観客っていうのは、見方が違うはずなんですよ。

　例えば、コーチの人がスカウティングと称して試合を見ています。我々も、彼らも試合を一生懸命メモをしながら見る。じゃあ、同じ見方で見ているのか、というとやっぱり違う見方で見ているし、違った見方をするべきだと思います。つまり、ここであるパスが出たとします。その時に、コーチとか監督とかの立場から見れば、パスが出た、という事実が大切なんです。その時にどういうキックをしたとか、どういうキックが得意なのか、どちらの足が得意なのか、それをどうやって止めたらいいか、これがコーチの人たちにとって必要なことなんです。

　我々にとって面白いのは、ある一人の選手がそこでなぜつないだのか、ということです。それっていうのは、その国のサッカーの伝統であるとか、その選手の生い立ちであるとか、そういうところに遡って、なぜ彼はああいうプレーを選択したのかっていう話ができるわけですからね。そういう部分はコーチたちには関係ありませんよね。ですから、サッカーの同じ試合を見るといっても、選手やコーチとして試合を見るのと、観客として見るのと、それからジャーナリストとして試合を見るのと、やっぱりそれぞれ見るべきポイントというのは違ってくるはずなんです。

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