29日、来年1月2日、3日に行われる第91回東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝)のエントリーメンバーが発表された。今大会は、駒沢を中心に早稲田、東洋、明治、青山学院の5校が優勝争いを展開すると予想される。今季をもって退任を発表している渡辺康幸駅伝監督の有終の美を飾れるか、創部100周年の節目にふさわしい強者揃いの選手たちを紹介する。
1区にエントリーされたのは、中村信一郎(スポ3)。「ここ2年間怪我なく練習を積めてきた」という中村は、今季序盤から第一線で活躍してきた選手。近年、スピード駅伝と言われているが、もともと短い距離を専門としていた中村にとっては絶好の区間配置だ。中村自身も事前取材で「1区を走りたい」と明言しており、念願が叶う結果となった。スタミナ面においては11月の全日本での不本意な走りがあったものの、その後の上尾ハーフや集中練習等で「スタミナの心配はない」と中村は話している。早稲田は例年1区が鬼門であるといっても過言ではない。この区間のエントリーにも東洋大・田口、駒沢大・中村といった安定感のある選手が光り、前半からハイペースな展開となるだろう。その中で並み居る強豪校との競り合いから少しでも前で襷を繋ぎたいところだ。
各世代のトップが集う「花の2区」を任されたのは、前回大会で区間賞を獲得している高田康暉(スポ3) だ。今季は序盤に怪我が続いて出遅れたものの、終盤で5000m、10000m、ハーフマラソンの自己記録を更新し、調子を合わせてきた。2区の23.1kmのコースは終始細かいアップダウンが続き、高田自身も「とても難しいコース」と称すが、今季を振り返り、「1年を通してのリベンジをしたい」と強い思いを語った高田ならばもう一度区間賞の走りを見せてくれることだろう。この区間には、高田が意識する選手として挙げた駒沢大・村山、東洋大・服部勇馬、明治・大六野、大東大・市田孝の他、全日本1区で熾烈な区間賞争いを見せた城西大・村山、日本インカレ5000m日本人トップの中央大・新庄など有力な選手が顔を揃えている。絶対に誰にも負けたくない―心身ともにレベルアップし、渡辺駅伝監督にも「今年一番成長した選手」と言わしめた早稲田のエース、高田が躍動してくれるはずだ。
2区と並ぶ重要区間3区には、井戸浩貴(商2)。全日本では6区区間3位と駅伝シーズンに入って好調をキープしているが、事前取材で「疲労」という言葉を口にしたのが懸念されるところか。ただし、井戸は一般入試で早稲田に入学した努力の選手。その努力が実り、1年時から箱根を走っていることも今季の強みの一つである。昨年度の経験者として落ち着き、かつ攻めの走りを見せてくれることだろう。この区間の有力選手は駒沢大・大谷、明治・有村といったところ。エース級の多い2区が混戦となれば、3区には流れを変える走りが求められる。勝負の3区、ここで1度流れを位置づけたい。
最短区間4区にエントリーされたのは藤原滋記(スポ1)。集中練習で「距離の不安が消え、力が付いた」という期待のルーキーは、自分のペースで押すことが出来るロード、特に駅伝に自信を持つ。憧れの箱根に対しても「自分の仕事に集中したい」と準備万端だ。ただし、この区間のエントリーは前回大会で4区の早稲田記録を樹立した平和真(スポ2)が濃厚か。平は目標に「4区の区間新記録」を挙げており、その記録更新にも期待がかかる。いずれにしてもこの区間で山に入る前に勢いづけられれば、往路優勝の可能性もぐっと近づく。
全区間中最長かつ最重要区間の5区・山上りには、チームの絶対的な信頼を得る山本修平主将(スポ4)を起用。近年、勝負の鍵となる山のスペシャリストの育成が各校の課題となっている中、1年時から走る数少ない選手だ。この区間で渡辺駅伝監督の課す1時間20分切りを見据える山本は「気持ち負けしないように走る」との本人の言葉通り、自分自身との戦いとなるだろう。標高差864mのコースに挑む選手には、青学大・神野、明治大・文元、日大・キトニーらがエントリーされた。「新山の神」の栄光は誰が得るのか、早稲田にとって山の攻略は優勝の鍵となることは間違いない。前回期待されるも怪我に泣いた山本は「4年間応援してくれた人に対しての思いに応えたい」と誓う。そんな山本の本来の粘り強い走りが見られれば、悲願の往路優勝も夢ではない。
翌日3日、復路のスタートを切るのは三浦雅裕(スポ3)。前回大会の区間第2位という鮮烈なデビューから1年、再び箱根の山に帰ってきた。「ストライド走法でバネを使って走るので下りには向いている」と自身を分析した三浦の課題となるのは、前回大会区間賞ペースながら差を開けられたラスト3kmの走りだろう。一気に山を駆け下った後の足にフラットなコースはダメージが大きい分、走力の差が現れやすい。この区間には、駒沢大・西澤などがエントリーされた。「58分フラットから20秒の間」を目標に「区間賞を狙う」と宣言した三浦。復路の選手を勢いづける走りに期待したい。
山が終わって、リスタートとなる7区は武田凜太郎(スポ2)が走る。昨季は1年生ながらチームの原動力となる活躍を見せたが、一転して今季は怪我に苦しみ続けた武田。「一度はやめようと思った」と自身を振り返りながら、「仲間に恵まれていることを実感した」と支えてくれた周りへの感謝の気持ちを口にする姿が印象的だった。怪我の功名、多くのことを考え、行動して自分自身と向き合った武田は実力はさることながら、何倍も気持ちが強い選手となって帰ってきた。この区間には駒沢大・西山、青学大・小椋といった自分で流れを作り出すことのできる選手が並んだ。それだけ6区から7区への流れが重要であることが伺える。武田にはその中で「早稲田は復路でも強いというところを見せたい」と意気込んだように気持ちの入った走りでアップダウンの続くコースを力強く走り切ってほしい。
8区には、ルーキーの安井雄一(スポ1)を起用。上尾ハーフで63分代の好記録をたたき出し、勢いそのままにメンバーに名を連ねた。「プレッシャーをとても感じる」と話す安井だが、安定感のある走りが持ち味だ。なお、渡辺駅伝監督は1年生を一人起用すると過去に話しており、補欠として残る光延誠(スポ1)とどちらが走るのかにも注目したい。両選手とも出雲、全日本でメンバー入りしており、実力は折り紙つきである。この区間には東洋大・今井や日体大・周防らがエントリー。繋ぎの区間として称される通り、堅実に襷を繋ぎたいところだ。
復路のエース区間9区には、柄本勲明(スポ2)がエントリー。今夏までCチームにいた柄本はまさに下剋上を体現した選手だ。周囲もその成長ぶりに驚いているようだが、柄本自身は至って冷静そのもの。「周りの選手が喚起される走りをしてチームに貢献したい」と話す。だが、この区間で有力なのは過去に9区を経験し、自身もリベンジを願う田口大貴(スポ4)あたりか。渡辺駅伝監督からの信頼も厚く、11月の全日本でもエース区間を任されている。9区は上位校の順位変動が見られることも多く、この区間の結果が最終結果となることも多い重要区間だ。他大学でも現時点では補欠となっている選手が起用されることも十分考えられるので、臆することなく貪欲に前を狙ってほしい。
最終区、10区のエントリーには佐藤淳(スポ2)があてられた。「アンカーでゴールテープを切ってみたい」と語る佐藤は全日本の反省を生かして、調整に意識して取り組んでいる模様。上尾ハーフでの入賞もあり、実力があるだけにこれからの過ごし方が鍵となってくるのだろう。早稲田としては過去2年においてラスト勝負で負け、涙を飲んでいる。そこで現時点では他大に目立った選手の登録は見られないが、1秒1秒を大切に着実に歩を進め、最後まで気を緩めない姿勢が大切になってくるはずだ。その中で、今大会は苦しくなっても粘れるとする佐藤の強みを生かして「優勝」のテープを、さらには渡辺駅伝監督の胴上げが見られることを期待したい。
現時点では早稲田は主力の田口大貴、柳利幸(教3)、平和真をリザーブに回しており、また4年で最後の箱根路に挑む臼田稔宏(基理4)、岡田健志(スポ4)も控えていて層は厚い。
他大学にもリザーブに主力を残す傾向が見られることから、当日までレースの予想は容易ではない。ただし、ここで揺らぎないのは、早稲田の強みが前回大会の経験者が豊富に残っていることにある。前回大会最後に抜かれて4位と悔しさを経験した彼らだから知る箱根攻略の難しさ。「部員一丸となって総合優勝を目指す」山本主将を中心とした早稲田の戦いの模様はいかに―来年1月2日の号砲を待つ。
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